広き檻の中で 第27回
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「ん……くぁ……」
朝。
時計を見るともう六時。そろそろ起きんとな。横では志穂が俺の腕に絡まりながら寝ていた。
それで思い出す。昨日の事を。
「う、うーん…」
一応…飯の用意はしとくか。非常時(?)でも生活リズムはくずしちゃいかん。
さて、志穂をおこすとしますか。
「おらぁ、おきやがれぃー志穂ー」
寝起きは声が安定しない。
ゆさゆさ
……起きヤシねぇ。志穂は目覚めがいい方だから声を掛ければ大体起きるんだけど……。
悪戯しちゃおう。普段そんな事は恐ろしくてできる分けない。
やったら何十倍にもしてかえされちまうからだ。ふふふ…狸寝入りか。だったら今が好機!
今までの数々の暴力の恨み、晴らしてやるヨ!!
「倍返しだぁー!!!!」
熱血隊長のような掛け声とともに一撃!!
ピシ
でこピン。えぇ、チキンで結構ですとも。ビバ!チキン!!
……あれ?起きない……あぁ。なーる。お目覚めのキッスが欲しいのかい。なら、遠慮はしない……
チュッ
と、映画のワンシーンのようにキスをする。
………まだ起きヤシねぇ。そうかいそうかい。それ以上を求めてるってかい。じゃあ遠慮なく。
モミ
胸を揉む。
お嬢よかでかい。(まぁ、ドングリのせくらべだが。)
揉みモミもみモミ。
……昨日の今日で俺はなにをやってんだ……どうも最近性欲バランスがオカシイ。
と、胸を揉みながら気付く。…………心臓動いてるか?
胸が小さいから(失敬)分かりやすいと思うが……。
慌てて胸に耳を当てる。
………シーン……
あ、あれ?オカシイな。鼓動が……しない?
「お、おい!志穂!志穂!!」
何度呼び掛けても体を揺すっても反応が無い。さすがにやばいな。
まさか死………い、いや。急死するような病気持ちじゃないはず。超健康優良体だ。
となると………
昨日のお嬢の言葉を思い出す。
「死ぬよりつらい地獄を見せてあげるわ…」
とかいってたな……

 

まさか、それで本当に殺したってのか?でもそれじゃぁ死ぬよりつらい地獄ってなんだ?………
と、とにかくお嬢の所へいくっきゃねぇ!志穂が本当に死んだら……俺は…




こんな時に屋敷の広さが厄介なもので。お嬢の部屋のある二階へはいちいち玄関ホールから
登らないといけないという面倒さ。
暗記しているとはいえ、迷路みたいな通路は本当に迷惑だ。
初めて入った奴が迷ったら、出るのも困難だろうな。まったく……なんでこんな構造になってんだヨ………
部屋の近くまで行き、腕時計を覗く。六時半。もうおきてっだろうな。
バン!
走った勢いのまま部屋のドアを開ける。
お嬢は、ひどく冷静に、且笑顔で。
「おはよ、晋也。」
そう言いながら歩み寄り、抱き付いてきた。その顔はもう少女だ。
当主として背伸びしていた時とは全く違う。こんなんお嬢じゃないやい!
「ウェイトだ。お嬢。重りの事じゃ無いゼ。」
「?」
Sit!このジョークは通じなかったか。胸にあるお嬢の顔を掴んで離す。
「お嬢。志穂になにしたんだヨ!」
俺はさっきまでナニをしてたわけだが。
「ふふふ…あっはははは……はははは……そう……起きないでしょ?あの女。」
純真な笑顔から、般若のような笑顔になりかわる。ころころと忙しそうだな。
「やっぱなぁ〜…お嬢の仕業だと思ったんよ。………で?なにしたん?まさか…本当に殺したの?」
「ふふふ……そんな花の無い事しないわよ……もっともっと苦しんでもらわないと……ね?」
ね?じゃないって。
「ふふ……あの女のね、時間を止めたの。だから死んでもないし生きてもいない。
育ちも衰えもしないわ。晋也の子供なんて……孕ませてなるモンデスカ!!」
「そ、ソンナ!まだ孕んだと決まったわけじゃ………」
「いいの!!それにね、それだけじゃないの……私も鬼じゃないのよ。
一生あのままにしておくわけじゃないのよ?
……私と晋也が幸せな家庭を作って…たくさんの子供を生んだら、
目の前で覚まさしてあげる………あはっ。びっくりするでしょうねぇ……寝て起きたら、
そんな事になってるんだらかね………」
……お嬢が鬼に見えてしまった俺は、桃太郎にならねばいかんのか。


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