暗い……
真っ暗だ………
闇しか見えない………
もとい、目さえあるのかも判らない。体のある感覚が無い。意識だけが存在しているみたいな感じだ。
「なんだこりゃ?」『なんだろう、これ……』
頭の中にノイズが入る。自分の声だが口調が違う。
「……誰だヨ!?」『だ、誰!?』
自分と同じ事を相手は問う。
((わけわからん……))
「目が覚めた?」
急に目の前に現れた人物に話しかけられる。それは………
「お嬢!……ここどこなんだ?」『佐奈様!…ここはどこですか?』
慌てて佐奈に聞いてみる。すると佐奈はクスクスと笑い…
「ふふ…そんなに焦らないで…ここはあの屋敷よ。」
意味不明だ。こんな真っ暗闇の空間が住んでいた屋敷だなんて………
「あぁ!俺、死んだんじやぁ……」『僕、死んだんだよね……』
「落ち着きなさい……いいわ、みんな教えてあげる。この屋敷の事も……私自身の事も………」
「お嬢自身…」『佐奈様自身……』
「まず、無くし物の真実って知ってる?」
いいえ、と首を振る。
「あれはね、私のせいなの。」
「『はぁ?』」
「そもそも私自体がこの『屋敷』であり、この体はその精神のための入れ物……」
………話しが突飛している。そんなSFめいた話しは大人の遊び場だけにして欲しい。
なんとか理解しようとする。
「『それで……?』」
「この体に入り込んでもただの感情を持たない人形………だから、この屋敷に住む人達の『感覚』を
吸い取り、人間を擬態していきてきた。」
自嘲するように笑いながら話す。
つまり佐奈嬢から吸い取られた感覚が無くし物ということになる。
「……それで、なーんでこんな事になったん?」『なんでこんな事態になったんですか?』
「どうして……ですって?…みんな…みんなあなたのせいよ!」
「わ、わちき?」『ぼ、僕?』
全く身に覚えがない。こんな仕打ちを受けるような悪行をしたおぼえは……
「あなたが……私に優しくするから……あなたの事を好きになったからよ!」
そう叫ぶと下を俯き、ポツポツと語り始める。
「……あなたより前にこの屋敷で働いていた者達は、みんな私の正体を知って…いたわ。
知っていながら仕えていた……感情を返してもらうためにね。」
声が詰まり気味になる。……泣いているのだろうか。
「だから、昔からみんな私を化け物あつかいにした………感情を奪う魔女だって、迫害されてきた…。」
「『………』」
「でも……あなたは、子供の頃から私と仲良くしてくれた。書庫に閉じ込められていた……私に、
こっそり会いに来てくれた……」
「そして……私は初めて人を好きになれた……他人から……奪わずに、好きになるという……感情を…
覚えた。あなたを愛する事ができた!それなのに!」
声に怒気が混じる。
「あなたは私だけを愛さず、あろう事か使用人である……あの二人の女を愛した…晋也は志穂を!
純也は奈緒を!!それがなによりも許せなかったのよ!」
言い終えると、フッと鼻で笑う。
「まぁ、晋也は嫉妬に狂った里緒に殺されたけどね………私は……待てなかった……
次に晋也のような人物が現れるのを!……だから…純也を作ったのよ……」
「純也を?」『僕を?』
「………私が奪える物はね、人の感情だけじゃないのよ…この屋敷からだって奪える物もある…たとえば、『時間』とかね…」
「『時間…』」
「この屋敷から時間を奪い、巻き戻した………そして、もう一度やり直したの……」
同じ時間を繰り返した、と言う事か。
「でも同じ晋也のままじゃ、結果も一緒。だから、晋也の感情もかえたわ。
感情が変われば、性格も変わる。晋也の性格違いとして、純也が生まれた……
純也も、晋也と同じく私に優しくしてくれたわ………だけど…愛する事まではしてくれなかた!!
二度も裏切られた!!」
もう彼女の目に涙はない。怒りに満ちている。
「ふふふ…だからね、花穂に私の分の『嫉妬心』を与えて、純也を殺させた…私以外の女を
愛するあなたなんて、見たくないものね…」
「花穂…?」『そ、そんなぁ』
「あっははハハハ…だから、私を愛さない限り、何度も死に続け、何度も同じ時を
繰り返す事になるのよ!!次から私を愛してくれれば、二人から嫉妬心を取り除いて、
生き延びさせてあげる……どう?いい話でしょ?」
「助かる方法はそれだけかい?」『助かる方法はそれだけですか?』
「えぇ、そうよ。屋敷の外へは出られない様にしたわ。裏門も開かないわよ……
無くし物を全て取り戻さない限りね……」
……つまり、佐奈嬢が返さない限り無理、か………
「ふふふ……だから、次の時間では、私だけを愛しなさい……他の女に、手だししない方が
身のためよ……」
それだけを言い残すと、うっすらと消えていく。
「ストップだ!お嬢!」『待って!佐奈様!』
「……何?」
「俺は……誰なんだ?晋也なのか?純也なのか?」
『僕は……誰ですか?晋也さん…それとも純也?』
「…それは…あなたが決めていいわ…晋也が私を愛しても……純也で私を愛しても、
私は幸せだからね……」
それなら……
「俺は……」『僕は…』
A:「笹原晋也だヨ!」
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