広き檻の中で 第14回
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もうどれぐらい走っただろう。時間も分からない。もとい、この屋敷で時間なんて無いのかもしれない。
なんとか志穂は振り切ったが、道に迷ってしまった。
まったく、自分の家で迷子になるなんざめったになかろう。
「交番もないしネ。」
くらっ
うぅ……。目眩がする。腕からまた血が溢れはじめた。さすがの健康体な俺でもコリャヤバい。
再度勇気を出して引き返し、医務室へ戻ろうか。
「間に合うか微妙だなぁ。」
そう呟きながら引き返そうとしたそのとき。
「うわぁ!!」
来た道にお嬢が立っていた。ひどく無表情(無表情にひどいもあるのか)な顔で。
凍えるほどの冷たい顔で睨み付けられた。その視線に俺の心は悲鳴をあげそうになった。
「お、お嬢!今までどこにいたんすかぁ!?」
人間切羽詰まりまくると変に落ち着くらしい。
いつものテンションでお嬢に話しかける。
「………」
変わらず冷たい視線。
「人生笑わなきゃ損にゃ。スマ〜〜イルにゃ!」
どこぞの猫商人のようなセリフで話すが……「………」
効果無し!
「なんかあったんすか?そんなに落ちこんで。」
「………」
何も言わない。無くし物リストに言葉でも追加したのだろうか。
と、
チュッ
という効果音が付くようなキスをされた。
「お、お、お嬢?!」
声が裏返っちまった。いきなりだもんなぁ。やるね!
スッ
お嬢が一歩後ろに下がる。そしてフッと、恐ろしい笑みを浮かべ………一言
「生きたかったら………私だけを………愛しなさい!!!」
ズッ!!!
まるでその言葉が合図のように、俺の右胸から長い刃が突き出ていた。
あぁ……だから…後ろに下がったのネ………
「え……あ……」
イタイ
すごくイタイ
もし痛みを無くしても、これなら取り戻せるだろうなぁ……
「あら〜。いけません……ねぇ〜。見ず知らずの女の子とキスしちゃうなん……てぇ!」グググ
言葉に力を込めながら、更に刀が深く刺さる。
「がはっ…ぁあ……み、見ず知らず……って…あれ、がぁ……は。」
あれは……
あの少女は………
誰だ?
ダレダ?
ワスレテシマッタ!?
「いいましたよねぇ〜?…私意外ノ…女の子と仲良くしたラァ…コロスッテェェァァァ!!!!」
ズシュ!
右胸から突き出ていた刀が、左に薙払われた瞬間。
何も見えなくナッタ。
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