広き檻の中で 第11回
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ゆっくりと死骸に近付き、刀の柄に両手を掛ける。そのまま体から刀を引き抜いた。
固まりきらなかった血がドロリと溢れ出す。
パジャマに刀……イカすね、以外と。まぁ血まみれってのがオツだな。
「あはははは……あと二人……あと二人で私たちだけになりますね……」
刀をぶら下げながらほほ笑む。
「そっかー。俺と志穂を殺してお嬢と二人っきりになるという算段すか。
大丈夫、天国の皆には里緒さんがレズだったってこと、トップシークレットにしときます。」
「わかって言ってるんでしょう?残るのは私と晋也さんですよ。」
残念!おいらに変態属性が無いことはこの前証明された。
いくら真剣になれんとはいえ、人殺しをだまって見てるわけにわいかん。
「いやいやいや、志穂を殺されたら困っちまうぜ。ここはソフトにいきまひょ。」
第二次交渉合戦開幕。
目的:殺人阻止。
……重役じゃねえかヨ!
「あの二人がいる限り、私たちが愛し合える時間が減るんですよ?
それに、二人っきりでも悲しくありませんからねぇ。」
「いやいやいや、俺、悲しい。」
里緒さんにはわからないだろうけど。
「………それじゃあ、晋也さんのために特別です。今後一切あの二人と親しくしないでください………
私とだけナカヨクしてくだサイ。もし、約束を破ったら、私嫉妬で晋也さんまで殺しちゃうかも
しれません。」
変わらない笑顔のまま言う。悲しまない人間は笑うしかないのだろうか。
まぁ俺はある意味笑いっぱなしだが。

ズルズル

刀を引きずりながらこちらに寄ってくる。おっと、あの刀のリーチは長いぞ。
バックステップして部屋を飛び出て、距離を開ける。
「ま、まぁ……そうっすねぇ。約束はできませんが、努力はしますヨ。」
そんなことなら、代わりに俺を殺せ!だなんて一般的にかっこいい(かっこいいとは思わないが)
セリフなんて言えるわけない。死の恐怖は愛より勝るのだ。
ウム、以後教訓としよう。

 

「それと……この屋敷からは出られませんよ〜。鍵は私が預かってますから。」
助けを呼ぼうなんざ毛頭考えちゃイナい。電話無いんだし。
「……だからって、夜中に部屋に侵入せんでくださいよ。」
「ん〜。わっかりませーん。」
「不法侵入、イクナイ!」
ガクガク震える足を押さえるように歩き出す。
やっぱチキンだなぁ、俺。
里緒さんかぁ………。
アッチのテクは上手そうだよなぁ……。何でも要望聞いてくれそうだし。
まぁ志穂の初々しさもたまらんが。やっぱり手放すのは勿体ないな。
いざ、戦え!我が欲求のために!立てよ!ペニ……
ズキン
「ん〜頭いてぇ……きてるなぁ。」
突然の頭痛。この屋敷における、一時的に無くし物を取り戻せるか、無くし物が増えるかの合図だ。
取り戻せる場合はあくまでも一時的にだか。
この屋敷では下手をすると無くし物が増える場合がある。
だから時々自分の感情を強く確認する事が必要なのだ。
この頭痛は………
「あぁ…来た来た。」
どうやら取り戻したらしい。思考が一気にまとまる。この際に今後について考えておこう。
里緒さんへの対処だ。言う事聞くフりしておくのが最適だろう。彼女の殺すという言葉は本気だろう。
……そういえば嫉妬で殺すとかいってたな。
嫉妬には二種類ある。喜怒哀楽に分別すれば「怒」と「哀」だ。
前者は人を傷つける嫉妬。後者は自分を傷つける嫉妬。
悲しみを持たない里緒さんにしてみるば、嫉妬からは怒りしか生まれないだろう。
人を傷つけるのは必然だ。実際既に一人消している。
次は志穂への態度だ。ん〜アイツになるべく顔を合わせなけりゃ万事O.K.でしょ。
もし会ったら……冷たくあしらいまひょ。
おろ、いつの間にか真剣さが消えちまったい。早いネ!
ただ最後に、頭の隅に消えかかった小さな『真剣さ』が告げた。
(いざとなったら皆を…せ)、と
「だまらっしゃい!本能君!」
本能とはア・プリオリ。理性というア・ポステリオリで抑えられるだろうか。
「努力、するって言っちゃったからなぁ…」
いろんな意味でだけど。


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