広き檻の中で 第7回
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敵、迫レリ
朝食から俺への攻撃は続いた。
大体なんで朝から鰻?ニンニク料理?
しかも俺だけみんなより量覆いヨ!
「うわ〜。おいしそ〜」
こら!志穂!!ちったぁ疑いを持ちなさい!!
「たくさん作っちゃったんで、お昼と夜も同じ料理でいいですか?晋也さん。」
『カレーじゃねぇんだよ!!こんな料理何度も食えるかぁ!!!』
と叫んでテーブルをひっくり返せるほど度胸は無い。だってチキンだもん。
「コケコッコ(いただきます)」
食べようとして箸に手を伸ばすと……
「あれ?お嬢は?」
よく見たらお嬢がいない。これじゃあ流石に食べられない。
「おかしいですねぇ〜。声を掛けたら返事があったんですけど……もう一度見てきますね。」
そう言い残して食堂を出て行く。残された二人。
「お嬢が寝坊だなんて珍しいね。」
「ん!?あぁ、そうね。」
このやろー。普段どおりに喋りやがってる。昨日俺たちはやっちまったんだゾ!
もう幼馴染みからは卒業しちゃったんだよ!!
なんだか自分でも分かる。今までと志穂を見る目が違う。
なんつーか……女を感じる。あのうなじといい、太股のラインといい………ん?
スカートがいつもより短い!
ヤロォ。挑発してるなぁ。
「うっ」
イカンイカン。もう一品加わるところだった。
「どうしたの?うずくまって。」
確信犯じゃあないあたり恨め無い。
誤魔化そうとして料理に鼻を近付ける。
「ン〜。いい匂だ。早く食いたいぜ。」
「へぇ…そんなに里緒さんの料理食べたいんだ……私の料理はそんなにがっつかないくせに。」
自爆
こいつ、更に嫉妬深さが増している。
前はこんなんじゃなかったのに。
「ばっか!そうじゃない!!昨日の夜に激しい運転したから腹減ってるんだ!!!」
赤面
作戦終了。オヴァ?

「晋也さ〜ん。志穂ちゃ〜ん。」
気が抜けそうな声で里緒さんが入ってくる。
「はい?」
「は…ど、どうかしました?」
志穂、再起動。
「佐奈様がいないんですよぉ。探すの手伝ってくれます?」
「はい!よろこ……」
ギロ!
「…了解、サー。」
そしてわがまま姫の捜索は始まった。
「晋也!あんたは私と一緒に探すの!!」
「えぇ〜。効率悪いじゃん。」
「あんた一人にすると何するか分からないからね。監視よ。」
二人っきりになって何かするのはお前でねぇの?
俺は第二次レイプ合戦に身構えるのであった。
「でも……お嬢、ここんところおとなしかったのに。久々ねぇ。」
探し初めて10分。屋敷の二階へ上る階段で志穂が口を開く。
「そだねー」
「あれ?お嬢の無くし物ってなんだっけ?」
「自制心じゃなかったかナ?」

代々この屋敷の所有者と、そこに仕える人は、生まれると同時に人としての『何か』を失う。
それに気付くのはそれなりに年を取ってからだ。
その重度や頻度も人様々。その結果現当主の老人はほとんど廃人と化してしまった。
その『無くし物』を取り戻してからやっと屋敷を出れる。
失ったまま町へ出ると周りの人に迷惑をかけてしまう。
だから取り戻すまでこの広い檻の中で暮らさなくてはいけない。
「そういやさ、里緒さんの無くし物ってなに?」
「キャアーーーー!!!」
突然屋敷中に響く悲鳴。
「里緒さんの声よ!!」
「里緒さぁーん!今すぐ駆け付けますヨー!」
いたた!!走りながら抓んないでよ、志穂。





広い屋敷を目まぐるしく駆け回ると、書庫の前で里緒さんが座り込んでいた。その腕からは血が流れていた。
「やや!どないしよっと!」
「お嬢様がいきなり包丁で襲いかかってきて……」
「な、ナンダッテ!?」
そいつぁアブねぇ。あの娘子、限度ってもんを知らねえからな。
「それでお嬢様は?」
向こうの客室の方へ指をさす。
「ほら!晋也、行くよ!」
「お、オラは里緒さんの治療を……」
「包丁もってるお嬢相手に、私一人で行けっての?」
(お前なら勝てる)
そう言う暇も無く腕をつかまれ引っ張られてしまった。
言ったら手刀という刃を食らうもん。
悲しいかな。この屋敷で一番権力の低い俺は言いなりになっていた。


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