広き檻の中で 第4回
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勢いの余り晋也に台所から押し出されてしまった。私もいきなりの事に素直に返事してしまった。
久しぶりに見た晋也の真剣な顔。やっぱりかっこいい。ゴキブリを倒してくれるなんて男らしい。
この人を好きになってよかった。
物心つく頃から。いや、それより前から晋也とは一緒にいた。
小さい頃から使用人としての仕事を教えられてきたが、全く苦では無かった。常に晋也が隣りにいたからだ。
そんじょそこらのモデルなんかよりかっこいい。伊達のファッション眼鏡もポイントだ。
それに似合わない下ネタも多いけど。
初対面の人に下ネタをかますのは凄いけど。
でもここ最近私に対しての接し方が消極的になった気がする。
体の触れ合いも少ないし、私より里緒さんと仲良くしてる時間の方が長い。
私が照れ隠しで襲ったりするのがいけないのかな。
キスもHも晋也だけと決めている。私が知ってる限り晋也もまだ未経験だろう。
でもこのままでは里緒さんに先を越されてしまう。
ましてやお嬢まで狙っている。いつまでもこの関係を続けている訳にはいかない。
晋也を虜にするか、ライバルを消すか………
後者の方が確率は高い。消去法で私しかいなくなる。
ガチャ
「おぉ、片付いたぞ。」
晋也の事を考えている時にいきなり顔を出され、ドキッとする。
「ゴキブリなんていたんですか〜?」
「ええ。でももう大丈夫です。あなたの晋也君が片付けました。」
「あなたの」に力を入れて言う。何があなたのよ!
あんたは私のものなんだからあんたに権限なんてないの!!
「もう心配しないで思う存分料理してください。」
晋也が里緒さんに優しい言葉を囁く度に、ポケットにあるナイフを握る力が強くなる。
もう一つの方法があった……

一通り台所を調べてみた。掃除ロッカーの他にも、上の開きの棚から包丁が落ちてきた。
包丁は怪我ですむかもしれないが、斧が直撃したら一大事だ。
こんな仕掛けは悪戯じゃあすまされない。
「うむ、犯人にはお尻たたき百回の罰だな」
おっと、自分以外にはうら若き乙女しかいないな。役得役得。
一人になって考えてみる。あの斧を仕掛けたのは誰か。小学校の先生みたいに、
「誰が犯人かなんていうのは問題ではありません、やったという気持ちが問題なんです」
等と悠長にしていられん。まず当主の爺さんは除外。
里緒さん……まさか自分で仕掛けて自分でかかるなんて、おっちょこちょいな里緒さんでもありえない。
自殺願望も無さそうだしネ。
志穂……確かに凶暴だけどあんな事をするようなやつじゃあないのは俺が一番知っている。
佐奈嬢……はっ、まさか箸より重いものを持ったことのない人が斧を持てるわけない。
んで、消去法でいくと……え?つーか、俺?
ま、まさかモップを立て掛けたと思い込んで、実は無意識の自分が斧を……
「晋也?」
「ペ、ペルソナ!?」
「はぁ?相変わらず独り言多いね。大丈夫?」
思わず叫んじまったい。
「あぁなんだ、志穂……が!!」
見てびっくり。志穂が…あの志穂がね、ネ、ネグリジェを着て立っていた。
なんつゆーか……イイ!新鮮!!別人!!!
今までの考えごとをさっぱり忘れ、食い入る様に見てしまった。
「あのサ、部屋の電球切れちゃったから取り替えてくれる?私じゃあ届かなくて。」
確かに、自称150cmの志穂じゃあ届くまい。
「あいよ。」




志穂の部屋に入った途端、甘いにおいが鼻を突く。いつも志穂が使っている香水とは違うにおいだ。
なんか……頭がもやもやする。
「いよっと」
部屋の天井は高い。175cmある俺でも、椅子を使ってやっと手が届く。
一苦労して変え終える。と………
グラグラグラ
いきなり地面が揺れる。地震かと思ったが違った。志穂が椅子を揺らしていたのだ。
「うわ!!」
ドン!!
抵抗する間もなく振り落とされる。落ちた衝撃で頭を強く打ち付けたせいか、ひどく目まいがする。
「いてぇ〜!おい、志穂!悪ふざけも程々に……!」
気付けば志穂の顔が目と鼻の先にあった。その顔は今までに見たことのないほど色っぽかった。
「し、志穂サン」
「ふふふ…いいからじっとしてて。」
いつの間にか志穂の手が股間に添えられていたそこには俺の猛々しい(標準がわからんが)竿があった。
……目茶苦茶恥ずかしい。まさか志穂にこれを見られるとは。晋也、一生の不覚ナリ!!
抵抗しようとしても、この甘いにおいのせいで頭がぼーっとし、力が入らない。
さらば…俺の清き人生………


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