広き檻の中で 第1回
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舞台は某県の深い山中にあるとあるお屋敷。
ここに昔住んでいた遠藤家は、周辺の山々を支配していたという。
だがそれは昔の話。
今はその末裔が、先祖から引き継いできた莫大な財産を使い、世俗との交流を断ち自由気ままに生きている。
とはいえここに住んでいるのは70歳を超える寝たきりの老人(つまり一番偉い人)と、
その愛人との間にできた娘の遠藤佐奈(17歳)。
佐奈の専属メイドの高橋里緒(21歳)。
お屋敷の使用人の笹原晋也(19歳)、成瀬志穂(18歳)の五人のみである。
老人は一日二十時間寝ているので実質四人である。
佐奈は家訓に従い、一切家から離れようとせず、
それに付く里緒も家から出たことがないため、一般知識に乏しい。
それに比べ、前使用人たちの子供の晋也と志穂は、
住み込みで働いているが近くの街へ(とはいえバイクで一時間はかかる)よく降りるため、
一般知識は蓄えている。

これはそんなお屋敷の秋の話である。

生まれてこの方一度も開いたのを見たことのない大きな正門の前で、晋也は落ち葉を掃いていた。
小さい頃から仕事のノウハウをたたき込まれてきた晋也にとって、
百メートル四方の館の掃除など簡単だった。
「終わった終わった。さてと………でひゃひゃひゃひゃ。」
怪しい笑いを浮かべて部屋へ戻る。さっき買ってきた保健の絵本………所謂エロ本があるからだ。
早速袋から取り出し読み始める。
「うん……おお!!………ヲヲヲ!」
とりあえず「メイド特集」はスルー。巷では『メイド喫茶』なるものが流行らしいが、
里緒さんと志穂がメイド服を標準装備なため慣れてしまい、興奮が薄れる。
「……ましてや志穂なんぞに欲情したら終わりだぜヨ。」
「晋也ぁ〜!戻ってきてんの!?……ってなにしてんの?」

噂をすればなんとやら。ノックもなしに入って来る。が、予防策に抜かりは無い。
『おいしい料理百選』と書かれたカバーを見せつけ、シリアスな目で志穂を見つめる。
「ほら…今日の料理、俺の回だからさ……へへっ、皆にうまいもん食べさせたくて………」
「袋とじ。見えてるよ。」
「……」
「……」
ズバ!!
一閃の元に我が心の友が散って逝く。
「嗚呼!!志穂!バタフライナイフを装備するなとあれほどいっただろ!!
大体『戦うメイドさん』のポストは既に………」
「し〜ん〜や〜」
甘い吐息がかかる程に顔を近付けられる。ぴたぴたとナイフの腹を頬に当てる。光る刃がちびたい。
「あんたねぇ!!そんな本読むなら私を呼べって言ってるでしょうが!!
あんたになら私の裸ぐらい見せてやるわよ!!」
そう叫びながらバリバリと服を脱ぎ始める。
「そ、そんナ!情状酌量の余地を認めて!!終身刑は堪忍!!」
必死に服を脱ぐのを抑えるが、限界がある。
と、そんな地獄に垂れ下がる一本の蜘蛛の糸を発見した。
ぽんやりと歩いている里緒さんを発見。すかさずふくよかな双丘にルパンダイブ!!
「里緒さん!!助けて!!俺の部屋で露出狂が跋扈してるンです!!」
「あら〜。大丈夫ですか〜?」
「ダメです!!!」
「里緒さん……そいつをこっちによこして……」
ナイフ片手に部屋を出て来た志穂が、里緒さんを強請る。が、さすがは里緒さん。
俺を渡すまいとギュッと胸を顔に押しつけるようにキツく抱き締め、志穂を睨み付ける。
「…………」
「…………」
互いに無言のまま目線という名の刃が鍔競り合う。そんな中俺は………
「………オフゥ」
しっぽりと饅頭を堪能していた。


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