赤色 第6回
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「では、シン様、お乗りください」
そう言うと、初老の老人はリムジンのドアを開けた。

「あっ、こりゃどうも」
ぺこぺことお辞儀をしながら、シンはリムジンに乗り込んだ。

「お兄様。あんまり使用人に頭を下げないでください」
反対側のドアから乗り込んだセリが、ミネラルウォーターを飲みながら
シンに話しかけた。
「いや、でも、何か慣れないよ」
頬をかきながらシンが答えると、セリも苦笑した。

「あっ、待ってくださ〜い!」
リムジンを発車させようかと言うところで、呼び止める声が上がった。
シンが声の方を向くと、朔がこちらへ走ってきていた。

「よかった、間に合いました〜」
肩で息をしながら、朔はリムジンの窓に手をかける。
「何か用?」
ブスッとした声でセリが話しかける。
まだ昨日の事を怒っているらしい。

「ええ、今日からシンちゃん、セリ様と同じ学校に通う事になったので、
 私、お弁当作ってきちゃいました。
 はい、これはシンちゃんの。腕によりをかけて作りましたから、栄養も愛情もたっぷりですよ〜。
 で、こっちは材料が余ったから、セリ様の。よかったらどうぞ」

「うわ。ありがとう」
シンがお弁当を受け取ろうとすると、セリが横からひったくり、
お弁当の包みを開ける。

 

 

「……何かしら?これ?」
プルプルと震えながらセリが出したのは、朔の写真。しかも水着姿。
お弁当箱の中に入っていた。
「いえ、シンちゃんが学校で、『ああっ!朔姉に会いたい!寂しいよ、朔姉!』
 となったとき、その写真で自らを慰めていただこうかと。
 それとも、シンちゃんは水着ぐらいじゃ、自らを慰めるには出力が足りませんか?」
急に話を振られてなんと答えようかと困っていると、
「いいかげんにしなさいっ!
 お、お兄様があなたなんかを思って悲しむわけ無いでしょ!」
「ちぇ。まあ、せめてお弁当だけでも召し上がってくださいね」
「結構よ!今日のお昼は、私がお兄様を案内するんだから!
 じい!早く車出して!」
苛苛しながらセリが叫ぶが、シンは
「でも、折角作ってくれたんだしさ…」
と、お弁当を取ろうとする。
しかし、
「お に い さ ま ?
 昨日の、私の、話、聞いて、無かったの、で、しょう、か ?」
とすごい顔のセリに睨まれて、顔を青くして手を引っ込めた。

昨日の晩。セリの部屋に連れ込まれたシンは三時間ほど説教を受けた。
よくもまあこんなに口が回るものだと感心してしまうほど、セリはヒステリックな声で喋り続けた。

その事を思い出し、
「ああ、ごめん、朔姉。今日のところは遠慮さしていただくよ。
 また今度お願いするからさ」
シンはお弁当を朔にかえした。
「ふうん。お次が、あ る ん で す か」
セリがシンを睨む。
「あああ、ええと」
シンが答えに詰まっている間に、車は出て行った。

後に残された朔。
「あーあ。このお弁当どうしましょ。
 自分で自分の唾液やら何やらが入ったもの食べるのも間抜けだしなあ」


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