ひとり 第2話
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「よう、加地」
「おはよう、亮(りょう)くん」
大学の校門前で見つけた男に、俺達はそろって声をかける。
「あ、ああ、おはよう」
ぎこちない笑顔で返事を返すこの男は、加地 亮。
俺とさやかの同期で、さやかにとっては幼馴染みでもある。
無口で無愛想、友達も少ない。つーか、俺とさやか以外の奴と話している所を見たことがない。
加地は、人と関わりあいをもつことを避けている。
何でも、小学生の頃、両親を交通事故(さやかはブレーキの故障と言ってた)で失った事がトラウマとなり、
人と親しくなる事が怖いらしい。

人と親しくなる事が怖かった。突然消えてしまうかもしれないから……。
だから僕は人と関わりあう事を極力さけてきた。
駒野くんは、そんな僕に初めてできた男友達だ。
彼はいつも僕の事を気にかけてくれ、そして、しゃべりかけてくれた。
初めはうっとうしいだけだったけど、次第に彼のしゃべりかけは当然の事のようになり、
気が付いたら、僕から話しかけるようになっていた。

あの悪夢以来、さやかは僕の支えだった。彼女がいなかったら、僕は発狂していたかもしれない。
そう思えるほど、彼女は僕を支えてくれた。

そんな二人が付き合いはじめた。
僕の大切な二人。僕は言葉で言い表せないほど二人に感謝している。
二人には是非幸せになってほしい

「なぁ加地、さやか知らねぇ?」
講義が終わり、さやかを探していた俺は、偶然見つけた加地に尋ねた。
「えっ?さやか?さっき駐車場の方に行くのを見たよ」
「そっか、サンキュ」
加地と別れ、駐車場へと歩を進める。
そう言えば、さやかがひとりで駐車場へ行くなんて初めてだな。

駐車場の右隅、俺のバイクの前にさやかはいた。
何やってんだ、あいつ。
さやかはバイクと向き合いしゃがんでいた。

「なぁ、何やってんだ?」

ビクッ!彼女は驚き、振り返った。
その顔は、まるで悪戯がバレた子供のよう、いや、違う。彼女の顔からは、もっと重大な何かが感じられた。
「何やってんだ?」
再度同じ質問をしてみる。
彼女は答えない。心なしか視線が游いでいるように見える。
「まぁ、いいや。駅まで送ってくから乗れよ」俺はいつものように彼女を駅まで送っていこうとした
「いや、今日はいいよ。ちょっと用事があるから……。それじゃ……」
「サヨナラ」彼女は踵をかえし、駐車場を離れていった。

心にモヤがかかっていた。
彼女が別れ際に残した言葉がえらく、頭に舞っているためだ。
サヨナラか……。
いつもと違う別れの言葉……。
もちろん、深い意味などないであろう言葉。
しかし、俺には何か別の意味がある気がしてならない。
考えれば考えるほど、心にモヤがわいてくる。
バイクのスピードをあげる。風がモヤを吹き飛ばしてくれる事を期待して。

そろそろカーブか……。
俺はブレーキに手を伸ばした。

「!!!!!」
ブレーキが利かない。
馬鹿な!!! 故障か!? いや、それはないだろう。
最近すぐブレーキが甘くなるので修理に出したばっかりだ。
悪戯?
でも、だれが?
そもそも、俺のバイクに近付いた奴なんて……。
ガードレールはすぐそこまで迫っていた。


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