夢と魔法の王国 最終話
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<エピローグ>

急いで体育館裏に向かった。
これからいう言葉を、心の中で何度も練習する。
鼓動が高鳴る。
きっと大丈夫だ。
拓ちゃんは受け入れてくれる。
だから、拓ちゃんにきちんと言うんだ。
わたしは男なんだ、って。
「男なんだって?」
「え?」
わたしは拓ちゃんを見た。
拓ちゃんは見たことのない目をしていた。
「ミィちゃんから聞いたよ。僕をずっと騙してたんだね」
「た、拓ちゃ……?」
なにがなんだかわからなかった。
拓ちゃんの目が恐い。
なんで?
どうしたの?
わたしはただ拓ちゃんに触れたくて、一歩、踏み出した。
そこで、足を払われた。
「きゃっ……」
地面に倒れこんだわたしの上に、拓ちゃんがのしかかってくる。
痛い、痛いっ!
う、動けないっ!!
わたしの上に乗っかったまま、拓ちゃんがわたしのスカートに手を掛ける。
「い、いやっ……いやだっ……」
わたしは涙を流して必死に暴れるけれど、
拓ちゃんは完全に上に乗っていて、ひっくり返すことも抜け出すことも出来ない。
ビリビリと、スカートが破られていく。
冷酷に、無情に、わたしの正体が暴かれていく。
……やがて。
「やっぱり本当なんだ」
そう言う拓ちゃんの目が、ひどく冷たかった。
まるでムシかゴミを見るような目で、わたしを見下ろしていた。
どうしてそんな目で見るの、拓ちゃん。
わたし、ずっと、ずっと、好きだったのに……。
「これからは僕に近付かないでくれよ……変態さん……」
そう言い残して、拓ちゃんは去っていった。
一度も振り返らなかった。
あとには、わたしだけが取り残された。
地面が冷たい。
立ち上がる気力さえない。
ずっと待っていても、拓ちゃんは戻ってこなかった。
誰もこない体育館裏で。
わたしは、ずっと泣き続けた。


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