Which Do You Love? 第6話
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土曜日
今日も変わらず喫茶店で麻子を待っていた。あのお見合い以来、向こうからの接触はない。
このままお流れなんて事になってくれたら喜ばしいのだが。
カランカラン
入口のベルが鳴る。恐らく麻子だろうな。
「よ………ぉ」
「お久し振りですね。」
歩いて来たのは麻子ではなく奏だった。
「麻子さんでなくて残念でした?」
「……なんでここに居るって知ってんだよ?それに麻子の事も。」
ここでの事は誰にも言ってないし、知られていないはずだ。
「あなたのスケジュールぐらい確認済みです。」
そう言いながら向かいに座る。
「まいったな。……で?そこまでしてここに来たんだ。なんか用があるんだろ?」
「ええ。まずはこちらを……」
そう言いって鞄から紙切れを一枚取り出した。
「ん?………なんだこれ!?お前!いつの間に!?」
「あのお見合いの後にすぐに用意してもらいました。お父様に相談したら喜んで賛成してくれましたわ。」
「あの……親バカ髭野郎……」
テーブルの上に置いてあったのは婚約届だった。もう俺が書く所以外はきっちりと記入してあった。
「学校で渡すのもまずかったので、今日になってしまいましたが。」
「はっ。こんなもん、俺が書かなければ意味がないさ。それとも、次は偽造に走るか?」
「書きたくなければそれで良いのですが………その時は、麻子さんやあなたのお義父様にまで被害が及びますよ?」
「おい!。ちょっと待て!麻子は関係ないだろうが!?」
「あら?真っ先に麻子さんに反応するなんて、あなたらしくないですわね。
姉さんのこともそれぐらい大切にして欲しかったですわね。」
ちくしょう!
相変わらず社長の娘ってだけで権限ふりまわしやがって。
「なんで……なんでそこまでして俺なんかと結婚したいんだ?」
「言いましたでしょう?あなたを愛しているからって。」

本当か?
なにか裏がないか?
こいつがそう安々と結婚する程プライドが無いはずがない。
「さぁ、どうします?麻子さんには、私から言っておきますよ。」
そう言って微笑む。この笑顔が今日ほど憎く思ったことはない。
「……くそっ!」
なんでだ?
なに悩んでんだ?俺。
確かに社長への婿だなんて美味しい話さ。ましてや全国に有名な店だ。普通の奴なら速攻くいつくだろうさ。
じゃあ俺はなにを迷ってるんだ?
金や名声より大切な物があるのか?………人によっちゃああるだろうな。
「あっははは……」
不意に笑いが零れた。
そうさ。認めるさ。俺は麻子が好きだ。女としてな。
全く。人の気持ちを察する事に長けてるくせに、自分の事は全然気付かないなんてな。
ただ今はアイツに好きだなんて言える資格は無いな。自分の過去と今を全て清算するまではな。
「……時間をくれるか?」
「考えた所で、結果は変わらないと思いますが?」
「言ったろ?結果は原因だけじゃなくて課程の影響もあるって。」
「……まぁいいでしょう一週間です。それ以上は待てません。」
「感謝するよ。」
ふう。なんとか時間は稼げたか……
ガチャン!
なにかが落ちる音がした。
床を見ると……ケーキ、だったのだろう。原形をとどめずぐちゃぐちゃになっていた。
嗚呼。
最悪なタイミングだ。
そうは問屋が卸さないか。
「……聖…だ……れ?その女………」
テーブルの横では、麻子が顔面蒼白で立っていた。





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