Which Do You Love? 第3話
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お見合い当日
ブルルルル…キキッ
会場近くの駐輪場に原付を止める。まったく、現地集合とは、手間の掛かる。
初めてスーツなんて着た。卒業式までは着ないとおもったんだがな。
「おぉ、来たな。聖。」
玄関では親父が待っていた。
「先方はもう待っているぞ。早く行きなさい。」
「あぁ、わかってるって。…ところでさ、相手の名前、なんつーの?」
そう。お見合いがあると聞いただけで、その詳細は聞いていなかった。まぁ聞いた所で変わるものはないが。
「あぁ、たしか…桐原…なんだったかな?」
桐原……
最悪な予感がしてきた。偶然ということならいいが。
「あぁ、この部屋だ。さ、無礼のない用にな。」
あんたがな、と言うよりも先に、親父が襖を開ける。
むせ返る畳の匂いが鼻を突く。
部屋にはテーブルがあるだけだった。
その右手には相手の女と…父親だろう。ふさふさの髪に濃い髭を生やした、いわゆる『渋い』おじさんだ。
そしてその相手。これまた綺麗な着物に、しっかりとセットした髪。濃すぎない自然な化粧。
背筋をピッと伸ばし、凛とした顔立ちだった。
…初めて見たのなら見とれていたかもしれない…でもこいつは…確かに…
「どうもはじめまして。君が聖君だね。いやぁ、いい名前じゃないか。」
「どうも、恐縮です。」
社交辞令に適当に返事をし、女の向かいに座る。目が合うと、優しくほほ笑みかけてくる。
「はじめまして。桐原奏(かなで)でです。」
そう来たか
「こちらこそはじめまして。高嶋聖です。」
ほぼ棒読み。
そのまま話は進む。
お歳は?
趣味は?
ご職業は?
まるで職務質問の様にQ&Aが続く。
そして一段落して。
「それでは後はお若い二人で…」
「おお、そうですな。」
ドラマの台本に書かれた様な台詞を残し、二人はそそくさと部屋から出て行く。
そして部屋から遠ざかった頃を見計らい…
「……ちょっと歩きながら話すか。」
「ええ、そうしましょう。」
二人そろって園庭にでる。外から見ても分からなかったが、なかなか広かった。
しばらく無言で歩く。先に口を開いたのは俺だった。

「まさか君だったとはね。驚いたよ。」
「…知らなかったんですか?」
「あぁ、もともと受ける気のない話しに、興味は無いからな。」
「相変わらず失礼な物言いですね。」
「性分さ。…それより、君は知ってたの?相手が俺だって?」
「ええ。そうじゃなかったら受けませんでしたわ。」
「そう…。相手が俺なんだから、余計に嫌だったんじゃないの?」
普通に考えれば受ける筈がない。
「いいえ。この話を聞いた時は、飛び上がるほど喜びましたわ。運命とは、分からない物ですね。」
そんなに喜んだんかい。
「………目的は?
……復讐かい?」
思い当たる理由はそれだけだ。
「確かに、あなたのことは憎んでいます。でもそれ以上に……どうしようも無い程愛してもいます。」
それは初耳だ。
「そう……難しいね。感情って」
「忘れただなんて惚けるつもりですか?」
「忘れやしないさ。ただ責任を感じて無いだけだよ。」
「責任?あなたのせいで姉さんは…!」
「おっと。確かに原因を作ったのは俺かもしれないさ。でも彼女は勝手に壊れただけだぜ?」
「勝手にって…。原因があなたにあるのなら、責任だってあなたにもあります。」
「ああいう結果に至るまでの課程は彼女自信の問題さ。
全部が全部、俺のせいってわけじゃぁ無い。原因だけが全てじゃ無いだろ?」
「……確かに、姉さんにも落ち度はあります。」
「理解が速くて助かるよ。」
再び歩き出す。

「…今はその話は置いておきます。問題はお見合いについてです。
私はあなたさえよければ結婚……いえ、まだ早いですね。婚約まで考えています。」
あなたは?という目で見つめてくる。
正直こんな事言われるとは思わなかった。
「私、ずっと黙っていましたけどあなたのことを毎日思い続けていたんですよ?
遠慮して表にはしませんでしたが。それにこの事は姉さんからの許可も取ってあります。
後はあなたのお気持ち次第です。まぁ、あなたのお義父様のことを考えれば、答えは一つしかないかと…。」
「はは…それは脅迫かい?」
「まさか。提案です。」
「ふん…ずいぶんと一方的な提案もあったもんだ。」
そしてお見合いは終わった。返事は…まだしていない。
「どうだ?綺麗な娘さんだっただろ?あれほどいい相手は二度といないぞ?」
「あぁ……まだわからん」
駐輪場での帰り際。そんな話をする。この男の無知な笑顔が余計に苦しい。
「わかんないさ。」
そう呟いて走り出す。
何となく、ドライブがしたかった。海沿いの道。スピードを上げ、飛ばしていく。
なんて返事したらいいんだ。
誰に遠慮しているんだろう。
親父?
奏?
麻子?
それとも…
今は、何も考えた無くない…………


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