Which Do You Love? 第2話
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金曜日
学校
「よぉーっす!タカビ」
バン!
「ひっ!」
さっそく朝からタカビの背中に紅葉。
タカビ…本名:園崎 望(まどか)
やたらと偉そうな喋り方だから高飛車からとってタカビ。麻子が名付けた。
本人がなんでそう呼ばれてるか気付いてない辺りは不憫だ。
「ひ、聖さん…お、お、おはようございますですわ。」
スタスタ
そう言い残してさっさと行ってしまった。おかしい。
いつもなら「あ〜ら聖さん。あいも変わらず下品な挨拶ですわね。」
なんてムカツク一言でもかますのだが……風邪でもひいたのだろうか?
結局その日はずっとおとなしかった。仲のいい麻子にもよそよそしかった。
「なぁ…いったいタカビどうしたん?」
「さぁ?聞いても曖昧な返事するだけなんだよねぇ。」
昼休み。いつもなら三人で食べるのだが、今日はタカビは机に突っ伏したままだった。
いつもなら「あらあら、聖さん。コンビニのお弁当とは…見るに堪えないですわね。」
とかいって目茶苦茶興味津津に見てる。
だが今日は昼飯を食べないどころか、目も合わさない。なんか嫌われる様な事でもしたか?俺。
まぁいいや。こういう時は放置するに限る。
「その方が楽だよな。坂巻涼君?」
教室を出てこうとする(自称)友人に問い掛ける。
「………」
ひと睨みしたまま教室を出てってしまった。相変わらず無愛想な奴だ。
俺と同じで人付き合いが嫌いなタイプだとおもったんだがなぁ。
そのまま放課後も、タカビの調子は悪いままだった。
その夜
ブー!ブー!ブー!
バイブにしたままの携帯が鳴る。こんな時間に電話を掛けてくるのは親父ぐらいなもんだ。だから先手必勝。
ピッ!
「叫ぶな!」
「えっ!?え?」
電話の向こうには驚いた女の声。麻子の声だった。
「あ、すまん。間違えた。」
「も〜。なにをどう間違えんのよ!」
「いや、だってなぁ。こんな時間に電話してくる事なんてなかったし。で?何の用だ?」
「ずいぶんなご挨拶ね…心配してやってるってのに。」
「心配?なんの?」
「あんた明日お見合いでしょ?緊張でもしてんじゃないかな〜なんて思って…ね。」
「あぁ…心配ならいらん。やる気満々だからな。」
「そっか…心配してそん…した。」
ん?
麻子の声が僅かに掠れる。
「おい…どうした?麻子。」
「ううん。なんでもない!おやすみ!」
プツ!プープープー…
いきなり切られてしまった。麻子の奴…泣いてた?

お見合い。
そう聞いた時はショックだった。あまりにも急な話だったからだ。
自分には関係ない。そう何度も言い聞かせていた。
でも、やっぱりだめだった。聖が私以外の女と楽しそうに話したり、
笑っていたりするのを想像しただけで、怒りが込み上げてきた。
何時からだろう。私が聖に恋をしていると気付いたのは。
もしかしたら出会った時からかもしれない。最初は中学の時。聖は一人でいた。
無口で、クラスの輪に入らないタイプだった。
私はそういう奴を放っておけない…いわゆるおせっかいだった。
なんとか仲良くさせようと必死になったが、難しかった。
そんなある土曜日。買い物帰りに駅前の喫茶店。聖はそこにいた。
窓際にいたので、外から座っているのが見えた。私の足は勝手に動いていた。気付けば聖の前に立っていた。
「こんにちは…」
「………」
聖は驚いたように私を見ていた。
「相変わらず無愛想な奴ねぇ。」
「…そんなとこに突っ立ってないで、座れば?」
嬉しかった。聖に少しでも近付けたことが。それから仲良くなるのに時間は掛からなかった。
毎週土曜日。聖はこの喫茶店に来ていた。私たちだけの時間。
もう何年も続いていた。その中で気付いた。聖は決して深い付き合いは好まない事。
ドライな関係が丁度良い距離だと言う事。
だから私もそれを守っていた。もし近付きすぎたら、せっかく築き上げたこの関係が壊れてしまう。
そう思ったから、自分の本音を抑えていた。
そんな時に、お見合いの話がでた。
聖は全く気にしていなかった。結婚なんてする訳ない。そう言っていた。
それでも言葉だけでは不安だった。その話を聞いてから、ずっと聖への思いは大きくなるばかりだった。
今気付けば、最近では喫茶店だけでなく、学校でも聖と一緒にいる。あぁ、恋なんだ。これが…

かなり遅めだが、これが初恋だった。今まで男友達はいたが、全くそう言う対象として見なかった。
ただ、聖は違った。どこに惚れたのだろう…
最初の印象と、話してみてのギャップかもしれない。
読書が好きなこと。猫が好きなこと。料理がうまいこと…
知れば知るほど嬉しくなり、さらに聖をしりたくなった。でももうこれ以上知るには、
さらに深い関係にならなくてはいけなくなった。
聖との共通の友達、タカビにも相談した。そしたら、向こうにも脈はある。大丈夫だと言ってくれた。
だからお見合いの前夜、電話をした。気付いて欲しかった。伝えたかった。私の気持ちに。
心配したなんていうのは建前。本音はただ聖の声を聞きたかった。…そして、自分の気持ちを伝えたかった。
「緊張でもしてんじゃないかな〜なんて思って…ね」
違う。励ましたいんじゃない。行かないで。そう言いたかった。
「あぁ、心配ならいらん。やる気満々だからな。」
そんなこと、いつもの冗談だって分かってる。でも今だけは、言わないで。
「そう…心配してそん…した」
不意に涙が溢れてきた。私がいるから、行かないで。今からでも、断って。私の為に。あなたを愛してるから…
ピッ!
これ以上聖の声を聞いたら泣きそうだった。だからすぐに挨拶をして切った。
もう自分の思いは止められない。 もしお見合いが終わったら、自分の気持ちを伝えよう。
だから今は願うだけ。お見合いだけで終わることを。また私の所に戻って来てくれる事を。


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