小さな恋の物語 第2回
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「誠、今帰りか?」

私は努めて優しい声で校門をくぐって来た誠に声をかけた
そう、努めて優しく――

「あ、綾姉ちゃん」
「誠クンのお姉さん?」

耳に心地良く沁みる誠の声に被って耳障りなノイズが私の鼓膜を刺激する
――不愉快だ

「私もいま終わったところだ。一緒に帰ろう」

ノイズを無視して誠に声をかける
テストで午前中に終わった後、私は図書室で予習しながら時間をつぶした
中学に上がって誠と一緒に帰るのが難しくなった
部活や委員会がある私の下校時間と小学4年生の誠のそれには開きがある――
だからテスト等で何もないときはなるべく誠の下校時間に合わせるようにした
我ながら涙ぐましい努力だ

「うん、帰ろー」

努力が報われた瞬間だ
私は当然のように誠と手を繋いで家路に就く、はずだった

「誠クン今日一緒に宿題やる約束でしょ?」

誠より若干背が高く長い髪をツインテールで纏めている
傍目に見てまぁ容姿は可愛いといって良いだろう少女は誠の手を引っ張った

「おや、誠の"お友達"か?なら紹介してくれ」
 (私の誠に気安く触るな。名を名乗れ小娘が)

「初めまして"お姉さん"。佐伯奈菜です。誠クンの隣の席で仲良くしています」
 (名札が見えないの?その年で老眼とか?てーか人に聞く前にそっちから名乗れよ)

「奈菜ちゃんか良い名前だな。私は息吹綾だ。いつも"私の"誠と仲良くしてくれてありがとう」
 (小便臭い小娘に名乗るほど私の名前は安くない。いつまで誠の手を掴んでいるつもりだ、分を弁えろ泥棒猫)

「そんな…仲良くしてもらってるのは私のほうですから"お姉さん"は気にしないで下さい」
 (私のってなに?ショタ?冗談はてめーが買い漁ってるペラい本の中だけにしろよ雌豚)

なんとなく互いの本音が見え隠れする社交辞令の応酬
気に入らない
もう一人の私が囁いた
こいつは敵だ、と――


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