真由の部屋
「ふふ、嬉しいわ。涼さんから部屋に来てくれるなんて。」
「ああ、まぁな…。」
出された紅茶を飲む。気持ちを落ち着かせるのには最適だった。
それから他愛ない世間話をした。その中には一度も真奈についての話は無かった。
真由も、一度も俺の目を逸らさずに凝視していた。
「…ちょっと待っててね。汗かいちゃったからシャワー浴びてくる。」
着替えを持ってパタパタと早足で行く。何となく予想していた行動だ。
「今だな…」
真由が居なくなったのを見計らい、部屋を出て玄関へ。そこには本来有るはずの無い物を探す。
そして………
「あった…」
見つけてしまった。心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が出て来る。
「くそ!」
そう悪態を吐いた瞬間…
ガン!!
後頭部を襲う鈍い衝撃。一瞬視界がスパークし、同時に真っ暗になり、そこで俺の意識が途絶えた………
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「ん……うぅ」
ゆっくりと意識が戻る。視界はまだぼんやりとしている。
「あ、目が覚めた?」
少し笑ったように喋る声が聞こえた。
「ま、真由!!」
立ち上がろうとしたが、気付くと手足が紐で縛られていた。
「くそ!なんだこれ!?」
突然のことでパニックに陥り、バタバタともがいてみるが、なかなかほどけない。
「あら、駄目よ。おとなしくしてなきゃ。やっーと私の物になったんだから。涼・さ・ん。
もうこれからは私だけを見て、私だけを愛して、私だけと話して、私だけを感じてくれればいいの。
他の誰とも関わっちゃ駄目。涼さんは私のことしか考えなくちゃいけないの…。
私もあなただけを愛するから…。あなただけを見つめるから…。」
そう言って頬を寄せて来る。目がギラギラしている。最早尋常ではない。
「生憎だが…人の『物』になるのは勘弁だ。ましてや…人殺しの物にはな!!」
俺では真由を支えられない。治せない。そう判断するのに迷いは無かった。
「ふふ、人殺しだなんて…物騒な事言わないでよ…」
「お前が…真奈を車に突き飛ばしたんだな…」
一瞬真由の顔が引きつる。が、またほほ笑みがえす。
「何を証拠に…そんな事。」
「…傘だよ。俺の傘さ。」
「傘?」
「あの事故現場で…何か違和感を感じたんだがな。さっき玄関で俺の傘を見つけて確証したよ。
あの時俺は真奈に黄色い傘を渡した。でも事故の時に落ちていたのは赤い傘だった。
…あれ、真由の傘だろ?お前は真奈が持っていた俺の傘を持って帰った…だからお前は事故現場にいた!
そうじゃなきゃ、あの傘はこの家にあるはずが無いんだよ!!」
真由を睨む。俯きながら小刻みに震えている。
「アハハハ、ハハハ、ふふふふ。アーッハハハハハハ。まさか、そんな事でばれるなんてね。
そうよ、私が真奈を殺そうとしたの。残念ながら失敗しちゃったけどね。…でもそんな事もう関係ないわ。
真奈は記憶を忘れて、私には涼さんが手に入った。それで満足よ」
「何をしようが、俺はお前の物になる気は無い!」
「分かってるわ。アノ女が…真奈が居るからいけないのよね…だから、
涼がアノ女から離れるようになれば…もう二度と見たくなくなるように汚してしまえばイイノヨ。」
真由が部屋の隅に置いてあるバックから、カメラをを取り出す。
「ふふふふ、知ってた?あの杉田って言う医者。前の病室、患者へね猥褻行為で首になってたんだって。
学校の女子の噂になってたのよ。」
「なっ!」
「あの男…私のことじろじろ見てたわよね。だからこの前、姉を好きなようにしていいっていったら、
何の迷いも無く喜んでたわよ。ふふ、そうよねぇ。双子の妹から承諾を得たんだから。きっと、やりたい放題よ。」
そうほほ笑んで涼の頬に左手を添える。
「私が行ったら、真奈は凌辱されるわ…その写真を見せれば、涼も諦めがつくでしょ?でも安心して。
私が癒してあげる…ずぅ〜っとね…」
パタン
そう言って真由は部屋を出ていった。
「くそ!くそ!くそ!くっそおぉぉ!!!!」
いくら暴れても紐は手首をきつく絞めたままだった。足はベットの柱に縛られたまま。
どうすることもできないのか……ただ真奈が…自分の愛する人が、汚されるのを待つだけなのか……