鏡 True 第5回
[bottom]

真由の部屋
「ふふ、嬉しいわ。涼さんから部屋に来てくれるなんて。」
「ああ、まぁな…。」
出された紅茶を飲む。気持ちを落ち着かせるのには最適だった。
それから他愛ない世間話をした。その中には一度も真奈についての話は無かった。
真由も、一度も俺の目を逸らさずに凝視していた。
「…ちょっと待っててね。汗かいちゃったからシャワー浴びてくる。」
着替えを持ってパタパタと早足で行く。何となく予想していた行動だ。
「今だな…」
真由が居なくなったのを見計らい、部屋を出て玄関へ。そこには本来有るはずの無い物を探す。
そして………
「あった…」
見つけてしまった。心臓の鼓動が早くなり、冷や汗が出て来る。
「くそ!」
そう悪態を吐いた瞬間…
ガン!!
後頭部を襲う鈍い衝撃。一瞬視界がスパークし、同時に真っ暗になり、そこで俺の意識が途絶えた………






「ん……うぅ」
ゆっくりと意識が戻る。視界はまだぼんやりとしている。
「あ、目が覚めた?」
少し笑ったように喋る声が聞こえた。
「ま、真由!!」
立ち上がろうとしたが、気付くと手足が紐で縛られていた。
「くそ!なんだこれ!?」
突然のことでパニックに陥り、バタバタともがいてみるが、なかなかほどけない。
「あら、駄目よ。おとなしくしてなきゃ。やっーと私の物になったんだから。涼・さ・ん。
もうこれからは私だけを見て、私だけを愛して、私だけと話して、私だけを感じてくれればいいの。
他の誰とも関わっちゃ駄目。涼さんは私のことしか考えなくちゃいけないの…。
私もあなただけを愛するから…。あなただけを見つめるから…。」
そう言って頬を寄せて来る。目がギラギラしている。最早尋常ではない。
「生憎だが…人の『物』になるのは勘弁だ。ましてや…人殺しの物にはな!!」
俺では真由を支えられない。治せない。そう判断するのに迷いは無かった。
「ふふ、人殺しだなんて…物騒な事言わないでよ…」
「お前が…真奈を車に突き飛ばしたんだな…」
一瞬真由の顔が引きつる。が、またほほ笑みがえす。
「何を証拠に…そんな事。」
「…傘だよ。俺の傘さ。」

「傘?」
「あの事故現場で…何か違和感を感じたんだがな。さっき玄関で俺の傘を見つけて確証したよ。
あの時俺は真奈に黄色い傘を渡した。でも事故の時に落ちていたのは赤い傘だった。
…あれ、真由の傘だろ?お前は真奈が持っていた俺の傘を持って帰った…だからお前は事故現場にいた!
そうじゃなきゃ、あの傘はこの家にあるはずが無いんだよ!!」
真由を睨む。俯きながら小刻みに震えている。
「アハハハ、ハハハ、ふふふふ。アーッハハハハハハ。まさか、そんな事でばれるなんてね。
そうよ、私が真奈を殺そうとしたの。残念ながら失敗しちゃったけどね。…でもそんな事もう関係ないわ。
真奈は記憶を忘れて、私には涼さんが手に入った。それで満足よ」
「何をしようが、俺はお前の物になる気は無い!」
「分かってるわ。アノ女が…真奈が居るからいけないのよね…だから、
涼がアノ女から離れるようになれば…もう二度と見たくなくなるように汚してしまえばイイノヨ。」
真由が部屋の隅に置いてあるバックから、カメラをを取り出す。
「ふふふふ、知ってた?あの杉田って言う医者。前の病室、患者へね猥褻行為で首になってたんだって。
学校の女子の噂になってたのよ。」
「なっ!」
「あの男…私のことじろじろ見てたわよね。だからこの前、姉を好きなようにしていいっていったら、
何の迷いも無く喜んでたわよ。ふふ、そうよねぇ。双子の妹から承諾を得たんだから。きっと、やりたい放題よ。」
そうほほ笑んで涼の頬に左手を添える。
「私が行ったら、真奈は凌辱されるわ…その写真を見せれば、涼も諦めがつくでしょ?でも安心して。
私が癒してあげる…ずぅ〜っとね…」
パタン
そう言って真由は部屋を出ていった。
「くそ!くそ!くそ!くっそおぉぉ!!!!」
いくら暴れても紐は手首をきつく絞めたままだった。足はベットの柱に縛られたまま。
どうすることもできないのか……ただ真奈が…自分の愛する人が、汚されるのを待つだけなのか……


[top] [Back][list][Next: 鏡 True 第6回]

鏡 True 第5回 inserted by FC2 system