鏡 Ryo side 第2回
[bottom]

結局俺はそのまま昼寝をし、起きたのは四時だった。
真奈の奴は委員会で遅くなると言ってたから、先に帰ろう。
階段を下り、渡り廊下を歩いていると、親しい顔の女子の後ろ姿が見える。早足で寄って背中を叩く。

「よう、真由」
「ひゃ!…あ、涼さん、どうも。」
そう言って律義に頭を下げ、ニッコリと微笑むのは真奈と同じ顔…つまり双子だ。
この二人とは同じアパートに住んでおり、向いの部屋ということでよく一緒に遊んでいた。
ちなみに真奈が姉である。本当に瓜二つだが、髪型の違いで見分けられる。
真由は真奈と同じ長さのツインテールだ。
「今から帰りか?」
「えっ!?えぇ、そうです、帰りなんです。」
「じゃあ一緒に帰るか?」
「は、はいぃ!」
なぜ声が裏返る。何時からかこいつは誰にでも敬語を使うようになった。
最近はやたらと俺と距離を置くようになったが…。
性格が反対の真奈の顔で他人行儀な態度をとられるとなんかむず痒い。
「あの、あの。姉さんはいいんですか?」
「ん?構わねぇだろ。先帰れ言われたし」
そう言って真由の歩みを促す。
こうして歩いているのを見た輩が、やれ不倫だの二股だの喚くが気にしない。興味で騒ぐ奴は無視だ。

帰り道。 他愛の無い話をしながら歩いてると、急に真由は真剣な顔をした。
「あの…姉さんの事、見捨てないでくださいね。ふだんと違って、あの人寂しがり屋ですから。」
「??…ぁ、ああ」
いきなり言われて返事に吃る。今までに無い事を言われたからだ。
「心配するな。浮気は憎むほどに嫌いだからな。」
馬鹿な親父への軽い当てつけ。そのせいで今は一人暮らしだ。
それを聞いてまたニッコリと微笑む真由。
「じゃ、また明日な」
「はい、おやすみなさい。」
部屋まで着き、鍵を開けて中へ入ろうとする。その時。

「クスクス…私だって…本当は……クスクス」

嫌な寒気と共に真由の声が聞こえたと思い振り返ってみるが、既に廊下は誰もいなかった…。
「……ん?」
その奇妙な感覚にうち震えながら部屋へ戻っていった。





夢を見た。

またあの悪夢。

女が全裸で俺の上でまたがり、淫らに腰を振る。
本当なら興奮する夢だが、なぜか俺の意識は冷めていた。何よりも恐怖が心を占めていた。
女の顔が見えない。ぽっかりと穴が開いたような、ぼやけた顔が恐ろしい。意識とは逆に、体は絶頂に上り詰める。
そして果てると同時に、それは夢の終わりを告げる。

「最悪だ……」
ここ一週間同じ夢を見て、ひどい倦怠感に襲われる。
ただの夢だ。その時はそう割り切っていた…。


[top] [Back][list][Next: 鏡 Ryo side 第3回]

鏡 Ryo side 第2回 inserted by FC2 system