合鍵 第27回
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藍子「死ねッ!!
   この泥棒猫!!!
   死んじゃえっ!!!!!」

元也の手を掴んだまま、藍子はサキに枕を叩き続けた。
サキは動かない。

元也「藍子!止めろっ!!サキさん、死んじまうぞっ!!!」
藍子「良いじゃない!!こんなの、死んじゃっても良い!!
   きたない!!いやらしい!!」
元也「藍子ッ!!」

空いている手で、藍子が振り回している枕を止める。
枕を放り投げて、ナースコールを押した。

その隙を突いて、藍子がサキに近寄り、首を絞める。
藍子「死んじゃえっ!!死んじゃえッ!!
   もとくんはねぇ、私のものなんだからッ!!
   あんたなんか、死んじゃえばいいんだっ!!!!」

急に、サキが笑い出した。藍子を嘲る様な笑い声だ。
サキ「藍子ちゃん、あなた、本当に馬鹿ねえ。
   良い!?良く聞きなさいよ?
   元也君はねぇ、あなたじゃなく、私を選んだのよ?
   あなた、手首を切るような方法で、元也君の優しさにつけこんで、最低ね。
   ここから、元也君の近くから、消えなさいよ?」
藍子「うるさいっ!!
   あんたなんかがいるから、おかしくなったのよ!!
   死んでよ!!」
サキ「あははははっ!
   あなた今、すごい顔してるわよ、醜い顔。
   元也君、見てあげて、この藍子ちゃんの顔。嫌ねえ、怖いわねえ
   あははははははははははっ!」

サキが笑っている最中に、お医者さんが入ってきた。
お医者さんも、何が何だか、状況は分かっていないだろうが、サキが大出血している事に
気がつくと、急いで処置をしてくれた。

サキを担架に乗せ、運んでいく病院のスタッフさん達。
元也も付いて行こうかとすると、藍子に腕を掴まれ、後ろから抱きかかえられた。
そのまま、藍子は元也の首に腕を回し、絞め始めた。

元也「あ、藍子?」
返事が無い。その沈黙が恐ろしく、もう一度、藍子を呼んだ。

藍子「もとくん、大丈夫、私、勘違いとか、誤解なんて、してないから」
  「うん、分かってる。安心して。
   もとくんが浮気した、だなんて、思ってないから」
  「最低よね、サキさん。手首切って、もとくんの気を引こうだなんて、まるでストーカーみたい」
  「何考えてるんだろ?
   ああいう、おかしな人の考える事って、わかんないや」
  「きっと、勘違いしちゃった、可哀想な人なのね。
   もとくん、優しいから、勘違いしちゃったんだね」
  「優しいもとくんは大好きだけど、誰彼区別無く、優しくしちゃうのも、問題だね。
   ああいう、困った人、これからも出てきちゃうんじゃないかな。嫌だな。」
  「あーあ、サキさん、このまま死んだらいいのにね。そしたら、もとくんも安心できるのにね
   あ、でも、これで死なれたりしちゃうと、気分悪いね」
  「ほんと、迷惑ね。あんな、見せ付けるみたいに手首きるなんて」
  「もとくん、さっき、サキさんに、いやらしい事されてたけど、気にしちゃだめだよ?
   ああいうの、犬に噛まれたと思って、忘れるのが一番よ」
  「自分が相手にされなくなったからって、あんな強引に、いやらしいことするなんて、
   人として最悪ね」
  「ああ、嫌。サキさんの穴、ほじくり返してやりたい。
   ほじくり返して、もとくんの、一滴残らず、掻き出してやりたい」

藍子「…でも、私、やっぱり、嫌だな。何だか、私のもとくんが汚されちゃった気がする。
   サキさんの血も一杯ついてるね」
  「そうだ、服、脱いで。
   私が、綺麗にしてあげる。私のにおい、付け直してあげるね」

元也の服のボタンを外していく藍子。

元也「藍子っ」
藍子の腕を振り解こうとする元也。

藍子「うん?どうしたの?
   拭くだけよ。私は、こんなとこでも発情しちゃう様な人とは違うわよ。
   血、気持ち悪いでしょ?サキさんの血だもんね」

元也についた血を、タオルで拭う藍子。
タオルを六枚換えたところで、やっと血を拭き終わった。
元也「ああ、ありがと、藍子」
とりあえず、礼を言っておく。立ち上がり、サキの所へ行こうとする。

藍子「ダメよ」
藍子は手を離さない。

藍子「私、やっと分かったの。
   今まで、私、気を抜きすぎてたみたい。
   これまで、ずっと、私が元也君を見守ってあげなきゃダメだったのね。
   ゴメンね、私がしっかりしてないから、あんな人に、つけこまれちゃうんだよね。
   これからはもう、大丈夫だよ。
   もとくんに近づこうとする人は、全部、私が追い払ってあげるね。
   ほんとに、ゴメン。なんて馬鹿だったんだろう、私。
   そうね、そうと決まれば、退院したら、もとくんのお家に引越さなきゃ。
   ああ、やる事、たくさん有りすぎるよ。早く退院したいなあ」

サキの所へと行きたかったが、足が動かなかった。
頭が回らない。藍子の喋り続けている話の内容も分からないまま、呆然と元也は
立ちすくんでいた。


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