合鍵 第24回
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病院の売店で買ってきた花を、花瓶に移す。
寝ている人間を起こさないよう、音をたてないように注意する。

「あ、お花、買ってきてくれたんだ」
藍子が微笑みながら、元也に声をかけた。

元也「ああ、起こしちゃったか、ごめん」
藍子「ううん、いいの。もとくんが来てる時は、起きときたいから」

そう言う藍子の腕には、点滴の針が刺さっていた。

藍子が手首を切った後、元也は足の指を使い、藍子が使ったカッターで縛めをとき、
急いで救急車を呼んだ。
幸い、命に別状があるとのことは無かった。
しかし、リストカットの痕は、残ってしまうらしい。

元也「じゃあ、俺は帰るから、安静にしとけよ?」
元也が腰掛けていたベットから立ち上がると、
藍子「待って!!!」

藍子「行っちゃ、ヤダ」
元也「でも」
藍子「言って、くれたじゃない。
   ずっと、側にいてくれるって。
   私の側に、いてくれるって。
   聞こえてたんだよ?あのことば」

うっとりと元也を見ながら、
藍子「もとくん、やっと、正気に戻ったんだよね。
   もう、離さないから。
   もう、他の人のところに、行っちゃ、だめなんだから。
   だから、ここに、いなきゃダメ」

そう言って、元也の手を繋ぐ。

藍子の言う事を聞かないと、何をするか分からず、その怖さが元也を、藍子の言いなりに
させていた。

辺りも暗くなってきた。
看護婦さんが、元也に消灯時間だから帰るように言った。
元也がベットから立ち上がろうとすると、藍子が繋いでいた手に爪を立てた。

元也「いたたたたっ、何すんだよっ」
藍子「どこにいくの!!!!!!!」
元也「どこって、もう消灯時間だって、看護婦さんも言ってたろう」
藍子「騙されないんだからっ!!!
   そんな事言って、他の人のところに行くつもりでしょ!!!
   だれっ!!??さっきの看護婦さん!?それとも、サキさん!?
   言ったじゃない!!!!うそつきっ!!!
   私の側にいてくれるって!!!」

半狂乱と言ってもいいような様子に、元也は何もいえなくなった。

 

元也「わかった、分かった、ここにいるからさ、落ち着いてくれよ。傷にも悪いよ」

そう言って、なだめると落ち着いてきた。

藍子「じゃあ、ここにいてくれるのね?どこにもいかない?側にいてくれるんだよね?
   ……じゃあ、はい、入って」
そう言って、藍子は掛け布団をめくり挙げる。
一緒に寝ようと言う事らしい。

大人しく、布団に入る元也。
藍子はいまさら、えへへ、と照れていた。

元也「はやく、寝ろよ」

何分か経った頃、藍子が起きてる?と声を出した。
起きてるよ、というと、なんか、寝付けないね、と返事をする。
藍子「ねえ、この前みたいな事、したほうが、いい?」
と囁く。

後ろで、衣擦れの音がする。

元也「バカ言うな!お前、まだ点滴うってんだぞ?無茶も大概に言えよ」
叱る元也。
叱った後、しまった、言い過ぎたか?と思っていると、
藍子「うん、そうだね。
   ここを出れば、そんな事、いつでも出来るんだもんね。
   私も我慢するから、待っててね、もとくん
   ……でも、我慢するぐらいなら、私に言ってね」
頬を染めながら、藍子は言う。

恋人のようなセリフだ。
いや、藍子はもう、元也の恋人になっていると疑う事も無い。

しばらくすると、やっと藍子が規則正しい寝息を立て始めた。

これから、どうしようか。そんな事を思い、溜息を付く。
サキさんに、なんて言おう。
きっと、呆れて、俺の事、嫌になるだろうな。振られちゃうだろうな、きっと。

そう思うと、かなり寂しいが、だが、そうなるのが一番楽なのかもしれない。
そんな事を思っているうちに、元也も眠りに引き込まれていった。
サキさんの事を思って眠りに着いたので、サキさんの夢を見るかも、サキさん、って寝言で言っちゃって、
それを藍子が聞いたらどうなちゃうだろ?
想像しただけで怖くなり、考えるのを止めた。


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