合鍵 第23回
[bottom]

唇に何か当たる感触がある。
何かなと、目を開けると、月明かりの中、藍子が被さってきていた。
下着姿の藍子が自分の唇を絡みつくように元也の唇に当てる。一方的な、濃厚なキス。

なんだ、夢か。こんな夢見て、サキさんに申し訳ないなあ。
そんな事を思い、この夢を振り払うため、寝返りを打つ。

「もとくん」
藍子の声がハッキリと聞こえた。
あれ、と思っている間に、グイっと体を仰向けにされた。
そしてまた、口の中に藍子の舌を入れられた。

口の中で蠢く藍子の舌がやけに生暖かい。
藍子の荒い息がやけに大きく聞こえる。
体に乗っている藍子の体温が熱い。
頭が覚醒してくる。

元也「あ、藍子?」
何してんだよ!と、体を起こそうとしたが、出来なかった。
手首を縛られて、ベッドにくくり付けられていた。

そんな元也の様子を見ると、藍子は満足そうに微笑んだ。
そしてまた、元也の口に舌を這わせる。

止めてくれ!そう叫んだが、藍子は聞く耳をもたない。
もう一度叫ぼうとしたときに、元也は気がついた。

藍子が、泣いていた。

泣きながら元也にキスをして、泣きながら元也の首筋を舐め、泣きながら元也の顔を
撫でていた。

こんな事をしながら、ずるい、そう思う元也。
藍子に泣かれたら、元也はどうしようもないのだ。

藍子「もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、
   もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん」
元也の名を呼び続けながら、元也の体に自分の体を擦り付ける。

藍子「もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、
   もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん、もとくん」
元也の左足を、両のふとももで挟み、腰を動かす。鼻にかかった甘い声が、藍子から漏れる。
だが、それでも元也の名を呼び続ける。

お互いが汗まみれになった頃、藍子が下着を外し、元也の腰の上に膝で立った。

そして、元也を受け入れた。
初めてなのだ。快感など無く、痛みしか無い。
だが、一言もそんな事を漏らさず、腰を動かす藍子。

そんな藍子の痛々しい様子を見たくなく、目を逸らす元也。
だが、藍子に頬を持たれ、
「私を見て、お願い……」
と言われ、藍子を見る。藍子は、涙を流しながら、微笑んでいた。微笑みながら、泣いていた。

その涙を拭いてやりたいが、両手は縛られていた。
縛られていなければ、藍子を受け入れはしなかった。

事は終わり、藍子はセーラー服を着なおした。
そして、まだ縛られている元也に顔を近づけ、キスをしようとする。
だが、元也は顔をそむける。

顔を逸らしたまま、元也が、ごめん、と言った。

藍子が息を飲むのが分かった。

藍子「…………………これでも、まだ、だめなの?
   ……………サキさんと、いっしょのこと、しても、だめなの?
   ………………………なんでよう……………
   どうして、なのよう…………………」

カチカチカチ、と音がした。
カッターの刃を出す音だ。

なまぬるい液体が、元也の胸にぼとり、ぼとり、と音をたてて落ちてきた。

藍子の手首から、その液体は落ちていた。

その液体が、藍子の血だと気付くまで、数秒かかった。

血を流しながら、藍子は元也の隣に横になる。
藍子「ねえ、もとくん、もう、一緒にいてくれないなら、せめて、さいごは、
   となりにいてね。さいごの、おねがい」
正気を逸した瞳で、微笑む藍子。
血が流れている方の腕で、元也の頬を撫でる。

元也は縛られている腕を解こうとするが、よほど上手く縛ったのか、びくともしない。
焦る元也。血は、勢いを弱める事無く出続けている。

元也「藍子!しっかり、しっかりしろお!!
   眼ェ、開けろっ!!!!
   分かった、もうお前から離れない、ずっと、お前の気がすむまで一緒にいるから、
   頼む、頼むから、死ぬな!!!死なないでくれえっ!!!!!!」

力一杯で叫んだが、藍子は反応しない。
そうしている間にも、ベッドのシーツは、どんどん赤く染まっていった。 


[top] [Back][list][Next: 合鍵 第24回]

合鍵 第23回 inserted by FC2 system