合鍵 第11回
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「…起きて、もとくん、朝だよ……」
そうやって、今日も元也を起こす藍子。
だが、今日はその声が沈んでいる。昨日の落ち込んだ気分は、今朝になっても変わらなかった様だ。

目を覚まし、リビングに降りる元也。食卓テーブルの上を見る。
用意されてる今日の朝ご飯は和食のようだ。
白い御飯と豆腐のお味噌汁。それとシャケ。藍子が家から持ってきた、彼女の家特製の
お漬物もある。ああ、今日も豪華。
両親と一緒に住んでた頃よりも、確実に朝ご飯が素敵だ。今日も藍子に感謝。
元也「いただきまーす」

元也「あれ?目が腫れてっぞ、藍子。
   …寝不足?大丈夫か?」
テーブルに着き、藍子と向かい合わせになると、すぐに気が着いた。藍子の目が真っ赤だった。
クマもできてる。
藍子「…え?…そう、かな?
   よく、わかんないや。」
慌てて、元也から顔を隠した。みっともない顔を元也に見られたくはなかった。
藍子「あ、れ?」
ぽろり。
と、涙が零れた。
自分の、ちょっとした不調にすぐ気が着いてくれたのと、それを案じてくれる元也の気持ちが
嬉しくて、涙が出た。止めようと思ったが、次から次へと、涙は溢れてきた。

元也「なっ、おい、どした!?」
目の前で急に幼馴染が泣き始め、うろたえる。
藍子に尋ねても、なんでもない、なんでもない、と涙を流しながら微笑むだけだ。
訳が分からないまま、とりあえず、悲しくて泣いている訳ではなさそうなので、安心する。

元也の前で泣いて、あやして貰うと、少し気分が楽になっていた。
元也を見ると、戸惑いながらも、微笑み返してくれる。
胸にあった、寂しさが晴れていくのが分かる。

少し軽くなった足取りで、元也と一緒に登校する。
元也が隣に居てくれることが、嬉しかった。彼の脚音と、自分の足音を合わせる。
それだけで、幸せだった。

元也「ああ、そうだ。今日はお前が夕飯作ってくれるんだろ?
   何作るか決めてる?」
そう聞かれ、シーフードカレーを作るつもりだったが、リクエストがあるなら、そっちに
しようと思い、まだ決めてない、と言った。
すると、
元也「じゃあ、久しぶりにお前の作ってくれるシーフードカレーが食いたいな。
   あれ、好きなんだよ。」
と言われた。

もとくんと、私の考えてたことが一緒だ!!!
途端、元也との間に感じてた距離感が無くなり、胸の中の寂寥感が何処かへと行った。
藍子「…海老をたっぷりと入れて?」
元也「そうそう」
藍子「サラダにチーズを入れて」
元也「いいね」
元也・藍子「「それと、ラッキョも忘れずに」」
最後の声は重なった。
それがおかしくて、二人で笑った。

 

なんで、あんなに気分が沈んでいたのか分からない。
もとくんは、ここに、私の側に、居るのに。

藍子「じゃあ、私は先に帰ってカレー作っておくから、部活、頑張ってね!」
そう言うと藍子は足取りも軽く帰っていった。
あの分だと、腕によりをかけて作ってくれるだろう。今から楽しみだ。

今晩のカレーのことを考えながら、目の前にある石膏像をスケッチする。
すると、後ろから、首に巻きついて来る腕が出て来た。サキだ。
サキ「にゃっほ〜、がんばってるねえ」
そのまま、元也の肩に頭をのせる。ああ、む、胸が当たる。
元也「サ、サキさんは、どしたんですか、何かしないんですか?」
サキ「んん〜?今日はそんな気分じゃあ無いのよねえ。
   それはそうと、今夜は何食べたい?昨日が中華だったから、今日はイタリアンで
   責めようかと思うんだけどさあ」

…あれ?今日のこと、言ってなかったっけ?
元也「ああ、今日はお邪魔しませんよ」
サキ「ん?…どうして?」
元也の首にまわしてある腕に力が入る。
元也「今晩は、藍子が、ああ、僕の幼馴染なんですけど、そいつが作ってくれるんですよ」
サキ「………ふーん、ああ、あの、いつもあなたにくっついてる娘がねえ……」

何、それ。おかしいじゃない。この前、料理を作って貰ってはいないって言ってたじゃない。
だいたい、それならそうと、もっと早く私に言っとくべきじゃない?いや、そもそも、私と
食べる筈だったんだから、そっちを断るのが筋じゃないの?ふざけないでよ?

そんな事を考えていると、元也が腕をパンパンと叩いていた。気が付くと、元也の首を
思いっきり絞めていた。
うわ怖。今、私、無意識で絞めてたわ。私こんなに嫉妬深かったの。ヤキモチさんね、私、ふふ。
あんまり困らせないでね、元也君。うふふ。

サキ「だったら、私も元也君の家に行くわ。 
   それで、一緒に御飯食べましょう」
元也「え?でもサキさん、藍子の事知らんでしょ?」
サキ「いいから、いいから。そうね、今日から私とその娘、『オトモダチ』のなるから」

うーん、藍子とサキさん、かあ。
藍子は大人しいけど、人見知りする方じゃあないし、サキさんなら、誰とでもすぐ仲良くなれそうだし、
大丈夫かな?
藍子みたいにのんびりしてるのには、サキさんみたいな、引っ張って行ってくれる人が丁度いいかも。
そう思うと、結構仲良くなれそうな組み合わせのような気がしてきた。
それに、自分と藍子とサキが、一緒にカレーを食べるのは楽しそうだ。御飯は大勢の方がおいしいって言うしな。

よし、そうしよう。今日はサキさんも連れて帰ろう。
カレーだし、一人前位、増えても大丈夫だろう。
二人が、サキさんが言ったみたいに、友達になれるといいな。


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