合鍵 第6回
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藍子が独り、元也の帰りを待っている頃、元也とサキは…
サキ「じゃあ、明日も来てくれる?
   やっぱ、誰かと食べた方が寂しくなくて、おいしいな」
元也「ありがたく、お邪魔さして貰います。
   ……先輩がそんなに寂しがり屋とは知りませんでしたよ」
意外そうに、元也が言った。
サキ「そう、私、寂しがり屋さんなの。構ってくれなかったら、寂しくて死んじゃうから。
   せいぜい可愛がってあげてね」
クスクスと笑いながらサキは答える。
元也「分かりました。その内、頭なでてあげますよ。
   ……じゃ、ご馳走様でした!」

冷たい空気の中、帰路に着く元也。
…結局、何も起こらなかったな…
そのことに、ホッとするような、残念な様な、何かしなくちゃ駄目だったのか、色々な
考えが浮かんだ。
思い浮かぶのは、サキの華やかな印象だ。人を惹きつけ、自然と人の中心になるような
雰囲気の持ち主だ。

一人の女性に思いをはせると、自然と、自分に一番近い女性と比較してしまう。
藍子。幼馴染の女の子。いつも世話になっている。あんなに可愛らしい女の子が自分の
面倒を見てくれている事に、ありがたく、申し訳ないとも思う。
サキとは対照的に、目立つ人柄ではない。おとなしそうな、柔らかい印象を受ける。
サキがひまわりなら、藍子は…白い朝顔というところか。

家に着き、鍵を開けて入る。
サキの家でアルコールを呑んだ為、喉が渇く。キッチンに、冷やしてあるウーロン茶を
取りに行く。キッチンの蛍光灯を点ける。
驚いた。
そこに、藍子が足を抱えて座っていた。
な、何でこんな所に?
理由はすぐ分かった。コンロの上に料理が出来ていた。これを作って待っていてくれたのだろう。
胸が痛んだ。
もう、先に食べちゃったんだと言おうと、藍子の方を振り向いた。そして気が付いた。
待ちくたびれたのだろうか、彼女が眠ってしまっている事に。

藍子はそもそも、年よりも幼く見える。それが、こんな風に無防備に寝ていると、更に
幼く、あどけなく見えた。
足を抱えて、寂しそうに寝ている藍子を見ると、いつもあんなに面倒を掛けていると
言うのに、藍子が手間のかかる、寂しがり屋で甘えん坊な妹のように思えてきた。

元也「ほれ、起きろって」
声をかけても、藍子にいまいち反応が無い。完全に寝ぼけていた。
やれやれ、とため息をつき、
元也「ほら、抱っこしてやるから、つかまって」
そう言うと、素直に身をあずけて来た。

藍子を抱え、彼女の家へと向かう。藍子を前に正面を向いて抱えているため、彼女の白くて細い
首筋が目に入る。妙な気分になって来た。そこに、藍子が抱っこの姿勢を直そうとしたのか、
体を摺り寄せるような動きをした。うお、ヤバイ。
この、やましい気持ちが藍子に伝わらないように祈る。無邪気に寝ている彼女に、
申し訳なくなる。きっと、こいつはこんな感情を持ったこと無いんだろうな、と思い
自分が情けなくなってきた。
 
ふと気が付くと、元也に抱っこをされていた。
ああ、そうか、もとくんを待っている間につい寝ちゃったのか、と理解した。
もう起きたよ、と告げようかと思ったが、そのまま寝たフリを続ける。
元也にこれ以上はないというほどに密着しているのだ。こうやって甘えられている事に
深い安らぎと幸福感を感じた。もうちょっと、このままでいたかった。

首筋に元也の吐く息が当たった。
とたん、体が熱く疼いてきた。
元也のベットで、あれだけ自分で触ったというのに、また腰の辺りが熱を持って来るのが
感じられた。
抱っこの姿勢を直す振りをして、体を擦り付ける。擦り付けた場所から、また新しい
疼きが生まれてきた。その感覚が心地よく、何度も何度も擦り付けた。

そうしている内に、藍子の家にたどり着く。
元也は助かったと、藍子はまだまだ抱っこされていたいと、両者別の感情を持ちつつ、
家の門をくぐる。
元也に起きろと言われたが、藍子はまだ寝た振りを続けた。
ため息を付きつつ、藍子の家のインターホンを押す。藍子の母が鍵を開けてくれ、
そのまま元也は二階の藍子の部屋に行く。
 
彼女をベットに寝かせつけた。しかし、首に巻きつけた藍子の腕は、元也を放さなかった。
これ以上は俺がヤバイ。
煮詰まりつつある頭の中でそう判断すると、寝ている人間に悪いと思いながら、強引に
引っぺがした。

相変わらず起きる気配が無いのでしょうがなく、元也は藍子に掛け布団をのせてやった。
制服のままで悪いと思ったが、着替えさせるわけにもいかないので、そのままにしといた。

そして最後に彼女の顔を見つめた。あどけない、幼い寝顔だ。
頭をなでて、お休み、と言って、部屋から出て行った。

部屋から出て行く元也を見送ると、制服を脱いだ。シワが付かないよう、丁寧にたたむ。
だが、下着のみになっても、体は熱く疼いていた。
我慢できなかった。吐く息が荒い。
目を瞑り、抱っこされている時の元也の体温とにおいと、頭をなでてくれた時の
くすぐったさをおもいだしながら、彼女は自分を触り始めた。


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