合鍵 第5回
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そして翌朝、藍子の部屋。
目覚ましが鳴る前に目が覚めた。パジャマがやけに肌にまとわりつく。
昨日、元也の家から帰った後も、彼のベットに寝た時の熱が体の奥に残っていたが、
それを無視して強引に寝付いたのだ。そのせいだろう、じっとりとした、体に纏わりつくような
汗をかいてしまったのは。
そして、その熱はまだ体の奥でくすぶっていた。

シャワーを浴び、汗を流す。
セーラー服に着替え、外に出る。朝御飯は元也の家で取るつもりで、家では食べなかった。

トーストをオーブンに入れ、コーヒーを沸かす。その間にハムエッグを作る。
用意も終わり、元也を起こしに二階へあがる。
起きていない事が分かっているのでノックもしない。
元也を起こそうと声をかけようとした時、昨日の自分の行動が思い出された。

瞬間で、体の中にくすぶっていた熱が燃え上がる。
昨日、私が、あんな、あんな事を、その、やちゃった、いや、やりそうになちゃった
とこで、もとくんが、寝てる、いや、当然は当然なんだけど、でも、あ、あああ、
セーラー服のスカートの中で、ふとももが閉じられ、もじもじと動いていた。

元也の部屋から飛び出し、洗面所に向かう。深呼吸。冷水で顔をザブザブと洗う。
鏡を見る。
腰の辺りに熱い強い疼きは残っていたが、顔色はなんとか平常に戻っていた。

改めて、元也を起こしに行った。

その日、学校に居る間、彼女は落ち着きが無かった。妙に頬が赤く、瞳は潤み、肌は汗ばみ、
元也を密かに追うその視線はいつもより熱っぽかった。

そして放課後。
藍子は昨日元也の家に置きっぱなしにしてきてしまった食材のことが気になっていた。
白菜の方はともかく、海老の方はタイムサービスで買ったものなのだ。早いうちに
調理をしておきたかった。

昨日に続き、2日も連続で元也と一緒に帰れないのは物凄く、物凄くイヤだったが、
先に帰っておき、元也が帰ってくるまでに料理を済ませておき、彼を驚かせるのは
とても楽しい想像で、彼女は先に独りで帰ることにした。

藍子「ごめん、あのね、今日も私、先に帰るね」
元也にそう告げたときの、彼の反応はおかしかった。
明らかに、なにかホッとした様子なのだ。私と帰れないのに、その反応は何?
寂しく、ないの?
藍子「……どうか、したの」
藍子「……なんで、嬉しそうなの……」
思わず、詰問口調になる。
元也「そんなこと、無いってば!」
不自然な大声で答える元也。
ますます胸の中で疑心暗鬼の心が膨れ上がる。

胸に黒いモノを持ったまま、元也のもとから離れる。
ひょっとしたら、今からでも、私のこの気持ちを感じ取って、一緒に帰ろうと言って
くれるかもしれない。
そう思って何度も元也の方を振り返ったが、彼はこっちに来てはくれなかった。

所変わって元也の家。
藍子は昨日作るつもりだった白菜の煮物と海老のチリソースを作り上げ、ソファーに
足を抱えて座っていた。
学校で別れた時の元也の態度がずっと気にかかっていた。
何か、すごく嫌な感じが収まらなかった。
そして、その気持ちと同じように、昨日から続いている体の熱と、腰の辺りの熱い疼きも
収まってはいなかった。

黒い気持ちと熱い体をもてあまし、彼女は考えることを止める。
すると自然とその足は元也の部屋、元也のベットへと向かっていった。

開いていたカーテンを閉める。
ベットに横に鳴る前、
藍子「これは、シワになっちゃうと、いけないから、だから、
   そうなの、こうしなくちゃ、いけないの」
顔を真っ赤に、いや肩の辺りまで真っ赤にさせながら、そう呟く。
自分に言い聞かせているのだろう。

スカートのファスナーに手をかける。ゆっくりとおろし、スカートを脱ぐ。
上もスカーフを取り、そろそろと脱ぐ。

そして、下着姿で元也のベットに潜り込んだ。
大きく息を吸い込み、元也のにおいを感じ取る。
昨日の何十倍も、体が熱く疼いた。
そして、今日は自分から、意識的に自分に触れた。声が漏れる。

玉のような汗が体中から出て来た。
それを気にする事もせず、むしろ意識的に汗を元也の布団に染み込ませる。

そして今、彼女はキッチンの隅で座っていた。
セーラー服も元通り、ちゃんと着ている。
昨日から続いていた体の熱い疼きが収まると、あれほど沈んでいた気持ちも
収まっていた。
むしろ、けだるい幸福感にも包まれながら、彼女は元也の帰りを待っていた。

藍子「…どうしたんだろ、もとくん、遅いな…
   せっかく、御飯、内緒で作って驚かせようと思ったのにな…」


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