合鍵 第1回
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「うん、これから毎日起こしにいってあげるからね」
藍子は合鍵を、それをまるで宝物の様に、大切そうに、受け止めた。

その合鍵の元鍵の持ち主、元也は一週間程前から独り暮らしを始めた。両親が
ブラジルに転勤したのだ。その日から遅刻を繰り返してる。彼は寝起きが悪いのだ。
それでも両親が居た時は、藍子が部屋まで上がってきて強引に起こしてくれていた。
しかし両親がいない今、彼女は家に上がれず、インターホンを鳴らすだけしか出来ない。
インターホンの音程度で元也が起きれるはずも無く、結果、毎日遅刻することになる。

この状況を打破すべく、元也が思いついたのが、藍子に合鍵を渡し部屋まで起こしに
来てもらう、というなんとも情けない方法だった。

 合鍵を渡した翌日。藍子の声で眼が覚める。寝ぼけ眼で彼女を見ると、セーラー服の
上にエプロンを羽織っていた。
藍子「さあさ、早く下に降りましょうよ」
どことなく嬉しそうな彼女について一階に降りると、そこには朝ごはんができていた。
しかも豪華。いつもトーストだけな元也だが、今日はトーストに加え、目玉焼きにサラダまで
ついていた。
藍子「さ、食べましょ。私もまだ食べてないから、ご一緒しましょう」
二人で、向かい合ってその朝ごはんを食べた。おいしかった。

 合鍵を渡してから3日の放課後。
元也は独りで帰路に着いていた。いつも隣にいる藍子の姿が見えない。今日、部活に
行く前、「今日は私、先にかえるね」と藍子に言われたのだ。その時はなんとも
思わなかったが、こうして独りで帰っていると、ひどく寂しい。
思えば、幼稚園の頃から、ずっと一緒に帰っていたのだ。そしてその頃から、ずっと
藍子に頼りきっていたなあ、いや、今もだなあ。
そんな事を考えながら、とぼとぼ歩いていると、後ろから声をかけられた。
「あら、元也君、お独りなの?」


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