River of Tears 第6回
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 ――やっぱり買い物なんて付き合うんじゃなかった。
 独りぼんやりと缶コーヒー片手に雲ひとつない空を眺めながら、改めて思った。
 なんで女の買い物って奴はこんなに時間がかかるんだろう。
 文句を言おうにも男一人に女二人、分が悪すぎる。
 今二人は女性下着専門店の中にいる。自分には女連れとはいえ、
 そんな店に乗り込むような度胸はない。だから独り店先で待っている。
 このまま、こっそり帰ってしまおうか――そんな考えが頭をよぎる。
 ホント綺麗な空だ。

「ユウちゃーん!」
 空を眺めているといきなり抱きつかれた。うん、先輩だ。
「へー、これがアイの弟クン?」先輩の連れの人が言った。
 ――いえ、ただの先輩後輩です。
 いや、ただの先輩後輩なのかな――中途半端に親しすぎる関係が却って
 そういう関係なのかどうか頭を狂わせる。
 いっその事、この場で思いをぶちまけてもいいかもしれない。
「んー、ここで荷物持って立っているってことは――うんうん、頑張ってね」
 先輩は何かに物凄く納得した顔で満面の笑みを浮かべ、大きく頷いていた。
 オレの背後には女性下着専門店。
 えーと、ようするにガールフレンド待ちの男の子って事ですか、オレ?
「いや、あの違うんですけど……」
「お姉ちゃんは邪魔しないからね、じゃあもう行くね」
 人の肩を思いっきり叩かれた後、言い訳も聞かず先輩は駆け足で去っていった。
 誤解、されたかな――
 頑張ってね、って事はオレに恋愛感情もっていないのかな――

「ユウ君、おもたせー」
 後ろから可奈の声がする。
「よーし次はユウの服買いに行こう。あたしが選んであげるから」続いて広子の声。
「ヤダ」服は間に合っている。
 ややオレのハートはブルー気味――

        *        *        *

 最近ユウは丸くなった。
 こう言うとまるで昔荒れていたけど今は随分おとなしくなったって感じがするがそうではない。
 精神的な意味ではなく物理的な意味合い――オブラートに包まず言えば太ってきている。
 この間修学旅行の写真を確認したのではっきり言える。こいつが空手を止めたのもこの頃からだ。
 そしてユウの服の趣味は地味を通り過ぎてアレすぎる。あたしはこいつが、
 この数年単色無地の飾り気も何もない服以外着ていたことを見たことがない。
 そんなに顔も悪くないし、これ以上太らなければ髪型とか服とかも気遣えば結構光ると思うのに――

「なあ、お前って付き合っている人とか好きな人とかいるのか?」
 帰り道に何気ない感じでユウがあたしに聞いてきた。
「……いない」擦れる声が出ていた。
 付き合っている人はいないけど、好きな人はいる。直ぐ手の届く距離に――
「……ユウは好きな人とかいる?」
 聞き返してから、自分の耳が熱くなっているのがわかった。
 ――これって遠まわしに告白しているのかな。
「んー、いるけど……。なんか中途半端に距離が近すぎるって言うか……。
 オレの事本気で兄弟ぐらいにしか思っていないって言うか……
 おまけに前に付き合ってるだろ言われて否定しちゃったから、
 今更付き合ってくれとか言いづらいというか……」
 上目づかいで見てみるとユウは耳をかきながら、少し困った顔をしていた。
 距離が近すぎる、兄弟みたい、物心ついた頃から一緒に幼馴染だから当然だ。
 確か前に先輩に『デートか?』って聞かれて違うって言ってた。
 ――完全にあたしのことじゃん……
 心臓の鼓動の間隔がどうしようもなく短い。今凄いタイミング。何を言ったらいいのか分らない。
 口はわずかに動くが、言葉はでない。いや今向こうから言おうとしているから待っていればいいのかも。
「――相手もユウ君と同じ気持ちだよ、きっと」
 ありがとう、可奈。フォローしてくれて、やっぱり親友なんだね。
「……だといいんだけどな」
 ――そうだよ。

        *        *        *

 ユウ君、小学校の頃言った事気にしてたんだ――いつも一緒だったから、
 皆から恋人同士だろって言われた時違うって言ったこと。
 私そんな事とっくに気にしていないのに。
 最近ずっと一緒にいるから、とっくにそういう関係だと思ってたけど、
 よく考えたらまだちゃんと言ってなかったね。
 うん、私待っているから。

        *        *        *

 さっきから広子は顔を真っ赤にしたまま俯いている。好きな人いるかって聞いただけでこれだ。
 こいつ告白された日にはどうなるんだ?
 一方可奈は幸せを隠し切れないって顔でニカニカしている。こっちは何が嬉しいんだろうか。

「うーむ……」
 別に今日は先輩に嫌われたとかそういう訳じゃないんだよな。
 むしろ励ましてくれたぐらいだから悪くは思っていないはずだ。
 でも、もし先輩が男の人と二人きりで仲良さそうにしてたら――ああ、これがヤキモチって奴なのか。
 オレやっぱり先輩のこと好きだ。
 先輩はヤキモチとか妬かないのかな……
「た、たた多分、ユ、ユウの、す、すすす好きな人……」
 今にも下を咬みそうな勢いで広子が口が震えていた。
 いや、広子お前まで無理して言わなくていい。お前にフォローされたとなると返って不安になる。
「――今度二人きりになった時にでも言ってみるかな」
 大丈夫だよな、きっと――


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