姉貴と恋人 前編 第9回
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 私のタカ。
 愛しいタカ。
 双子の弟。恋人。同級生。
 どんな言葉も意味がない。
 どんな言葉でも表せない。
 愛しいひと。
 頼りなげで可愛くて。それでもしっかり男の子で。
 私のことを大好きで、私が大好きなひと。
 タカがいれば何も要らない。
 私はずっと側にいてあげる。
 だからタカも。
 ずっと側にいてね。いつまでも。

 ベランダでぼんやりと月を見ていると、姉貴との思い出が浮かび上がってくる。
 こうするのは何ヶ月ぶりか。
 姉貴がいなくなって三ヶ月。毎日こうしていた。
 姉貴がいなくなって六ヶ月。麻妃と知り合って、でも毎日月を見ていた。
 姉貴がいなくなって九ヶ月。満月の夜にはこうしていた。
 姉貴がいなくなって丸一年。麻妃と知り合って丸半年。
 こうして月を見るのが懐かしくなるほど、俺は麻妃で満たされていた。
 そこへ姉貴が帰ってきて。
 全てが変わった。
 姉貴は強く優しく美しく。あまりに眩しかった。
 太陽は姉貴で月は麻妃。そう見えた。
 そして太陽に惹かれた。月を捨てた。
 しかし同時に太陽は強すぎた。あまりに強すぎた。
 近づきすぎて、熱さに耐えられなくなって。
 俺は月の優しさを知った。
 でも。もう月には向かえない。
 太陽はあまりに強すぎて。俺を離してくれないから。

 

 隆史。大切な隆史。
 彼の心は弱々しくて。
 昔の私を見ているようで。
 今の私を見ているようで。
 私達は傷をなめ合うもの同士。
 さみしい。あったかい。
 あったかい。さみしい。
 大切なひと。包んであげたいひと。
 そして包んでほしいひと。私を大切にしてほしいひと。
 私は弱くて、傷ついて一人泣いていた。
 彼は弱くて、傷ついて一人泣いていた。
 だからいっしょ。
 一緒にいれば淋しくない。
 でも。
 彼は去った。
 大切なひとを見つけて。
 隆史の大切なひとは。
 私じゃなかった。
 淋しかった。
 淋しすぎた。
 隆史というあたたかさを手に入れて。
 それを失ったときのさみしさ。
 さみしさ。
 そして隆史が現れたときの憤り。喜び。
 よかった。どうでもよかった。隆史がいるならそれでよかった。
 一人がいやだった。いてほしかった。私のものにならなくてもよかった。
 それなのに。
 隆史は今、一人で苦しんでいる。
 私を癒し、傷つけ、癒し、そして今苦しんでいる。
 隆史。大切なひと。
 包んであげたいひと。


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