久しぶりの日本だ。窓の外を眺めながら、私は興奮を抑えることができなかった。
タカに会いたい。声を聞きたい。抱き締めたい。
去年の夏から一度も会っていないタカ――双子の弟、隆史――を想う。
両親の反対に遭いながらイギリス留学できたのはタカのお陰だった。
タカは弟であると同時に良き理解者であり、ずっと私を支え続けてくれているパートナーだ。
そんなタカに、今日はプレゼントを。
私は向こうを立ってからずっと手に持っている紙袋を押さえた。ガサリ。そんな音さえ幸せに感じられる。
日本まで、あと二時間。待っててね、タカ。
ピンポーン。
「はーい、いらっしゃい――って姉貴!?」
その驚いた表情がかわいくてかわいくて――
「ただいまっ」
堪らずがばっと抱き付き、ぎゅーーっと抱き締める。ああ、幸せ。
「ちょっ、帰ってくるのは明日って言ってたじゃないかっ」
慌てて私を引き剥がしにかかるタカ。……ちょっと淋しい。
「何よ、今までだってやってたじゃない」
別に嫌がることをしたい訳じゃない。私は向き合える程度には腕を緩めた。
「それはそうだけど、今日はまずいんだよ」
「なんでっ」
「それは――」
ガチャッ!
「遅くなってごめん――って、え?」
目を見開いてこちらをみる可愛らしい女の子ひとり。利発そうな顔立ちにセミロングの髪。TシャツにGパンを穿いていて、全体的にラフな印象だ。
「あら、お邪魔だったみたいね」
そしてそのまま帰ろうとする。私はとっさに声を掛けた。
「待って下さい、私は隆史の姉です。誤解しないで下さい」
このまま返しては、きっと後でタカが困る。それに……
「あなたは?」
「えっと、進藤麻妃です。隆史君とは同じ学部の同級生で、たまに遊びに行ったりしてます。今日みたいに」
敵の情報も知らなければならない。
「そうですか。うちの隆史がお世話になってます。それで、タカ?」
「えっ、な、何かな」
ちょっと上擦った声。やっぱりかわいい。
「女の子を待たせるものじゃないわ。まあ、今回は私のせいだけどね」
そう言って、ウインクしてみせた。タカの顔が赤く染まる。
「それで、えっと、隆史君のお姉さん?」
見ると、わずかに頬がひくついている。そろそろ我慢できないのだろう。
「いつまで、その体勢でいるんでしょうか」
そう。私とタカはずっと抱き合ったままだった。互いの吐息さえ感じられる距離。
「ああ、ごめんなさい。『同級生』の前とは言えはしたない真似を」
同級生ではなく、はしたないという単語に反応する彼女。あまりに初々しいからついからかいたくなる。
「はい、どうぞ。あ、そうそう。私のタカなので、無傷で返して下さいね」
「「なっ!?」」
タカと進藤の声が重なった。
「冗談です。いってらっしゃい」
進藤麻妃。要注意ね。