「もしもし曽我ですけど。……岩崎さん? 突然でびっくりしたよ、うん。
……え? ボタン? 良いけど……。なんか照れるな、ほんとに俺のでいいの?」
一本の電話。それは開幕のベル。それは嵐の始まり。
歌声が校舎に響くと、卒業式なんだなって実感がわいた。
下級生の女の子が、卒業生の男子に駆け寄っていくのをみて、
なんか言葉に言い表せない感慨が沸いて、また涙がでてしまう。
「梶原でも泣くんだねぇ」
「太田は、心が冷たいから泣けないんでしょ」
太田が嫌みったらしいことを言ってきたからお返しをしてやった。
「まるであたしが冷酷非情の女みたいじゃない」
「違うっていうの? ……まあ卒業式だし、これくらいにしとく」
「そだね。…あーあ、あたしに告ってくれる可愛い下級生の男はいないもんかね」
「太田は人の恋愛に首をつっこみすぎなんだよ」
「やっぱり自分のことになるとねぇ」
ふうと太田がため息をつく。この仕草はかなりいろっぽくて私でもどきっとする。
だけど太田はこのいろっぽいのが長く続かない。
「ところで、亭主はどこよ」
「さあ、その辺じゃない? 私だっていつでも直人と一緒というわけじゃないわよ」
何気ない私の言葉に、なぜか太田はにやりと嫌な笑い方をした。
「ふーん、知らぬは奥様ばかりなり、か」
「なによ、それ。なにが言いたいの?」
私がにらむと、太田はさらにニヤニヤ笑った。
「ご亭主、狙われてるよ」
「……」
瞬間、あの女の顔が浮かんだ。
「へー、思い当たる節があるんだ」
おもしろがる太田の顔を、本気であたしはにらんだ。
「ちょっと、そんな怖い顔しないでよ」
「太田、クラスのカラオケ来るよね。全部話さないと、カラオケのときにいろんな思い出話するけど、いい?」
「……ちょっと梶原、それ反則……」
「そう、太田の事が好きだった渡辺くんに、思い出をプレゼントしようっかな」
「……マジ?」
私は、心からにっこりと笑顔を浮かべた。
「太田、まだ私の性格わかんない?」