春の嵐 その6
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「それって、完全に尻にひかれてるぜ」
「やっぱりもう夫婦だよねぇ」
口々にでるからかいに、曽我くんは猛然と反論していたが、私は、
訳もわからずに腹が立ち、それをごまかすためお肉を数枚続けて食べた
「何言ってるんだよ。何が夫婦だよ。あんなの口うるさい姉貴みたいなもんだぜ」
「あはは………でも、確かにそうかも」
笑い続けていた太田さんは、何かを思い出して笑うのをやめた。
それをみて曽我くんが腕を組んでため息をついた。
「だいたい、中一まではあいつのほうが身長が高かったんだ。その頃は
公認カップルも何も無かったし、あいつだって真藤先輩かっこいいとか言ってたんだぜ」
「真藤先輩って生徒会長やってた?」
仲町くんの疑問に曽我くんが、首をたてに振る。
「そう、あの人も俺達の高校に入学しただろ?」
「うんうん、覚えてる。かっこよかったよねぇ」
「だから俺達って、おまえらの思うようなそんな関係じゃないんだよ」
町村さんの桃色な吐息をあえて遮り、曽我くんは力をこめて言い切った。
それを聞いた私は思わず踊り出したくなった。お肉がいきなり美味しくなった。
「ところで曽我、合格発表の時に岩崎さんと何を話してたんだ?」
佐藤くんから突然話を振られて私は思わずむせかけた。
「何で知ってるんだ?」
「おまえね、岩崎さんも美人だし梶原さんだっけ?も可愛いから、すげー目立つのわかってる?」
すかさず町村さんが目を輝かして乗り出してくる。
「なになに、美人の不倫相手出現で夫婦の危機?」
「誰が夫婦だ、誰が不倫だ! だいたい岩崎さんに失礼だろ? ねぇ、岩崎さん」
「あはは、でも梶原さんてとっても可愛い人ですよね。そんな人と比べられると私負けちゃいますけど」
頬が熱くなるのを感じながら、私は適当なことを口走った。
「いや、岩崎さんのほうが美人だって。女らしいし、大人びているし、俺、
岩崎さんが幼なじみだったら良かったのに」
それを聞いて、私はうれしさのあまりなにも考えられなくなった。
「おーい、曽我。なに岩崎さんを口説いてるんだよ」
「えー、ウソー、岩崎さんが、赤くなってるー!」
その後、私はなにをしゃべったのか覚えていない。お肉の味もわからなくなってしまった。
ただ曽我君が浮気だの不倫だの言われて必死に反論しているのをかすかに覚えているだけだ。
私はひたすら幸せだった。あの人は見せつけるように曽我君を連れ去った。
けれど曽我君とあの人は何でもなくて、曽我君もあの人をなんとも思ってなくて。
梶原さんぐらい可愛い人だったら、すごく男の人にもてるだろうと思う。
だから曽我君を私にくれても良いと思う。
私は暗くていじめられっ子で人に好かれないタイプだ。
だけど曽我君だけは私に優しくしてくれた。だから私は学校は休んでも塾だけには来た。
私には曽我君が必要だ。あの人は曽我君がいなくなっても大丈夫だけど私はそうじゃない。
だから……。 

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