生徒会室の異変 第1回
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静かに一人でおやつを食べながら、備え付けのテレビでも見ようと、
放課後の生徒会室の前まで来た時。
鍵がかけられている部屋から、副会長の西野妙子の声が聞こえて来た。
かすかだけれど、でもなんだか様子が変。・・・どこか苦しそうな、呻くような声。

『やだ、ひょっとしてたえちゃん、Hなコト、してる?』

一見真面目で従順そうな美少女の妙子はとてもモテる。
自分でもそれを自覚しているから、たくさんの男子を思うままに貢がせている。
・・・イクとこまで行っちゃった関係の男子も、両手の数じゃきかないって話だ。
ルックスだけならアタシだって妙子に負けるつもりはないけれど。
いや、ぶっちゃけ、自信は、ある(笑) 
でも、あんな風に男に媚びるのは、ちょっとなあ・・・

だから、従弟とはいえ、アイツの前でも、つい、ね・・・
だって一応は同じ高校の先輩後輩なわけだし・・・

『・・・ちょっと覗いちゃおう・・・ごっめんねー、妙子・・・
後日の為に、ちょいと勉強させてもらいますよぉ・・・』

ささやかな好奇心。
でも、この時目にした光景を、アタシは一生忘れられないだろう。
・・・知らなかったほうが良かったのに。
・・・いや、もっと早くに気付いていれば、ここまで手遅れになることはなかったのに。

会長権限で持っている合鍵で、入り口のドアをそっと、開ける。
・・・隙間から覗くと、生徒会室の真ん中で妙子が椅子に座っているのが見えた。
どうやら、彼女の前には、誰かがしゃがんでいるようだ。
妙子は真っ白な喉を仰け反らして、時折喘ぎ声を漏らしていた。

『あ・・・あぁ・・・そこ・・・うッ、そう、こないだ教えてあげたみたいに・・・
そこがいいッ!』

聞いているコッチが真っ赤になるような、猛烈な喘ぎ声をあげると、妙子の姿勢が変わって、入り口側に体の正面を向けた。

最初はなんだか良くわからなかった。
妙子はスカートを捲り上げ、両脚を広げて椅子に座っている。
その長く白い両脚の間に、一人の制服姿の男の子が跪いている。
ここから見えるのは、その線が細く、華奢な背中だけだ。
・・・アタシが良く知っている背中。
・・・・・・今朝もアタシが見送った、あの背中。
彼は頭を、妙子のスカートの奥に突っ込んでいる。
妙子は男子の頭を片手で押さえつけ、
空いた手でブラウスの上からその豊かな胸を自分で揉んでいる。
男子は・・・両手を妙子の腰に回し、時折その頭が上下左右に小刻みに動いていた。

その時、床に、女物のパンティが脱ぎ捨てられていることにアタシは気がついた。
・・・・・・二人が、何をやっているのか、判ってしまった。

妙子は下唇をかみ締め、喘ぎ声を押し殺すと、跪く男子の顔を・・・
・・・アイツの顔を・・・恥ずかしげも無く、自分の股間にぎゅっ、と押し付けた。
そして我慢しきれないのか、自分で腰を動かしている。

『ん、んんンンー−−−−−−−ッ!!』

一際甲高い声を上げると、妙子は長い髪が床に着くほど仰け反って、がくん、がくんと全身を痙攣させた。
・・・イッた、ってコトなんだろうか。

しばらくして落ち着くと、ハァ、ハァ、と荒い息をつきながらアイツの顔を両手で包み込む。

『・・・ありがと。とっても、気持ち良かったぁ・・・北川君、大好き・・・』
『そんな、僕・・・西野先輩のためならなんだって・・・しますから・・・』

ふと、アタシは手のひらがぬるぬるすることに気がついた。
見ると、握り締めた爪が突き刺さった手のひらから、血がだらだら流れていた。

『ね、北川クン。わたしのこと、好き?』
『も、もちろんです!西野先輩とこんな関係になっちゃうなんて、僕なんだか夢見てるみたいで・・・』
『・・・じゃあ、石田さんのことは?石田さんと北川クンはどんな関係なの?』

妙子・・・なんでそこでアタシの名前を・・・

『え?なんでかっちゃん・・・あ、いや石田先輩のことなんか聞くんですか?』

『だって、北川クンと石田さんていっつも一緒じゃない?すごく仲良さそうだし。
わたしね、ホント言うとずっと悔しかったんだ・・・
好きな男の子には、もっとわたしだけを見てて欲しい、って思っててさ。
・・・ゴメン、こんな独占欲強い女、引いちゃう?』

『そんな事ないです!僕、本気で人を好きって言えるのは、西野先輩が初めてなんです。
石田先輩は、その、なんていうか、従姉の腐れ縁っていうか、もう実のお姉ちゃんみたいな感じだし・・・
全然、ほら、女の子としてなんか今更見れないっていうか・・・』

唇がわなわな震えている。産まれて初めての感情だった。
もし誰かがここでアタシにバットを手渡してくれたなら。

『じゃあ、正直に、ホントのコト、教えてね?
石田和美と西野妙子、北川クンが愛しているのは、どっち?』
『え・・・そりゃ・・・』

ハッとして、アイツの声に全神経を集中する。口ごもるってことは、まだ・・・

『・・・お姉ちゃんみたいな石田さんと、
・・・・いろいろ教えてあげたわたし。北川クンは誰が好き?』

長い沈黙。

『ね。いい加減はっきりしてよ。そんな態度、体張ってる女に失礼だとは思わないの?』

急に妙子の声の調子が変わり、ドスの効いたすごみを漂わせる。

『・・・・・・・・・・、しの、せんぱいです・・・』
消え入りそうなアイツの声。

『ん?なぁ〜に?ぜんっぜん聞こえないから、もっと大きな声で言ってよね?北川望君。』
『僕が愛しているのは・・・に、西野先輩です。』
『誰よりも?石田さんよりも?』
『・・・・・・・・・・・・・はい。僕が愛しているのは、西野先輩だけ、です。』

『わたしもよ。北川クン、もう、離さないよ・・・』

両腕をアイツの首に回し、激しいキス。そしてそのまま、妙子はアイツを押し倒した。
・・・その直前、アタシは妙子と目が合ってしまった。
・・・・・・始めッから、妙子は気付いていたのだ。
・・・・・・・・・アタシが覗いていることを・・・・・・・・・・・・・・・
あの、忘れようとも忘れられない、勝ち誇った目。

ふらつく足取りでその場を後にすると、アタシはなんとか家に帰った。
何度か吐いたけれど、晩御飯は一口も喉を通らなかった。

取り返しのつかない喪失感が、抑え切れない憎悪に変わるまで、それほど時間はかからなかった。


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